活性酸素とDNAの関係の私的解釈2022年02月05日 07:13

 DNAはワトソン・クリック(パソコン・クリックではありません!!)がノーベル賞を受賞したように、2本鎖を構成する4種の核酸が水素で共有結合しており、核酸の組み合わせ方が決まっているために、非常に安定で、遺伝情報も間違えなく次世代又は次世代細胞に伝えられる。
 しかし、代謝などのエネルギ発生による水分解に伴う活性酸素の発生は この核酸の水素の共有結合から電子を奪い、結合を部分破断するためにDNAに損傷を与える。DNAはその修復機能を有してはいるが、時々元の核酸の組み合わせとは異なる核酸配列に戻してしまう。これが細胞の老化である。また、DNAの損傷部分が細胞の細胞周期を制御する部分に生じると、細胞周期が非常に短くなり、異常に早く細胞分裂を繰り返す、即ち、腫瘍が増大するがん細胞に変化する。
 DNAにはDNA自身の損傷を検知し、がん化しないように自分自身の細胞周期を終了させる機能も有している。即ち、細胞分裂を起こさないように変える働きをするP53 などのがん抑制遺伝子が含まれている。 
 しかし、このがん抑制遺伝子部分が損傷を受ければ、がん化するリスクが生じることになる。また、がん抑制遺伝子は、それが生成するタンパク質の働きで細胞周期を終了させるメカニズムになっているため、、そのフィードバックには時間遅れがある。即ち、その時間遅れの間にがん細胞が生き残る可能性がある。これががん細胞が生成する主要因である。
 しかし、がん細胞は細胞周期が非常に短いという特徴がある。これは、ある意味でがんの消滅には有利に働く。
 細胞の分裂では、それに先立ち、DNAの複製が必ず行われる。その際、安定なはずのDNA2本鎖が1本鎖状態になる。その1本鎖が破断されれば、細胞分裂が起こらないだけでなく、その細胞も死滅する。
 これを活性酸素の作用で強制的に行うのが放射線がん治療ということになる。放射線を患部に照射することで、がん抑制遺伝子を持たないがん細胞はDNA1本鎖状態の時間が長いまま増殖を繰り返している。
 この不安定なDNA一本鎖状態のときに、放射線が細胞中の水を分解して発生した活性酸素が作用してDNAを破損する。これによってがん細胞は死滅する。
 一方、正常細胞はがん抑制遺伝子をもつ安定な細胞であり、また、細胞周期はがん細胞に比べ非常に長いので、活性酸素の暴露によってがん細胞に変化する確率は非常に小さい。
 特に、時間当たりの放射線量を小さくすれば、正常細胞ががん細胞に変わる確率を押さえられる。
 原爆の爆発時間は100マイクロ秒以下であり、単位時間当たりの被ばく量は10時間程度かけて照射するがん治療の場合より10桁程度大きい。これが、原爆被ばく者のデータをもとに設定された現在の法令の放射線防護基準では致死量とされている10シーベルト以上の照射をしても、がん治療の場合にはがん細胞は死滅する一方、正常細胞はがん化しない理由であろう。