ロシアの戦術核はどの程度の爆発力か。2022年10月08日 07:26

 多田将「核兵器」明幸堂(2019)によれば、ソ連/ロシアの核弾頭リスト(約60項目)で最小のものはTNT換算で10キロトンである。これは1960年代の古いものである。一方、アメリカのリストには0.1キロトンの比較的新しいものもある。広島・長崎は20キロトンレベルなので2桁小さい。最近のロシアの戦術核がアメリカのリストの最小値と同程度ならば広島・長崎の核出力の2桁下ということになる。

 原爆の爆発力を小さく抑えることは意外に難しく、その推定も難しい。広島・長崎でもその核出力は調査のたびに微妙に変わってきた。推定で装荷した核物質量の1割程度しか核分裂していないので、ロシアの戦術核でも、それほどうまく爆発規模が制御されるのか、不安である。
 戦術核の使用自体が問題外なのだが、仮に使用されるとしても、ロシア軍部が設定した計画通りの爆発規模に制御できるのか不確かさが大きい。
 
 Fred Pearse、”Fallout”、Portobello Books(2018)によれば、旧ソ連が大量に核実験を行ったカザフのセミパラチンスク核実験場には今の大量のプルトニウムが地中に埋もれている、即ち、核実験の燃え残りの核物質が大量にあるということで旧ソ連時代にそれほど核爆発力制御ができていたとは思えない。以来ロシアの核実験がそれほど行われていないと推定されるので、現在でも爆発力制御技術がそれほど進歩していない恐れがある。
 仮に、最悪、戦術核が使用された場合には、予想外の被害拡大がなされないことを祈るしかない。

なぜ、核爆弾では核出力制御が難しいのか。

 従来の火薬では臨界量というものが無いが、核爆弾は臨界量以下では爆発しないというのがその原因である。
 即ちTNTなど通常爆弾では、単にある温度以上に達すればすべて急速燃焼(爆発)する。従って最初の点火で爆薬がある温度以上になれば、その周囲の燃料は最初の燃料の温度上昇によりすべて燃焼するので、装荷重量に比例した熱出力になる。

 しかし、核爆弾は、中性子による核分裂連鎖反応により核分裂しない限り、核反応は停止してしまう。即ち、臨界量以上の核燃料装荷量が必要で、且つ、その爆発により臨界量が維持できなくなるため、最初の装荷量と臨界量の差分だけが燃焼できる。

 さらに、複雑な問題として、核分裂により爆弾自体が熱膨張するため、原子核の平均距離が拡大する。原子核と原子核の間はミクロに見ると物質がない、真空状態となっている。ここが広がるので、中性子は爆弾の外側に漏洩しやすくなる。即ち、臨界量が爆発による発熱の結果、温度変化に伴って変化していくことになる。仮に、爆発初期に外側から機械的に圧縮することで臨界以上できたとしても、熱膨張ですぐに臨界状態が維持できなくなってしまう。

 長崎の原爆以後、核燃料部の組成の工夫でこの熱膨張をできるだけ抑制する技術開発が行われてきた。また、熱膨張の効果が大きくなる前に、中性子を外部で増倍して再注入し、未臨界になる前にできるだけ多くの核分裂を生じさせるような工夫も行われてはきた。

しかし、これらの挙動は核燃料の結晶構造と中性子による核分裂連鎖反応に関わるミクロの世界のことなので、実験で検証しない限り、臨界性、中性子連鎖反応挙動を精度良く予測することは困難である。一方、核実験禁止条約などにより実験実施は制約があり、精度良い核爆発力予測が難しくなっている。これが現状なのであり、ロシアといえど、核爆発力の制御能力は十分ではないと考えられる。

万一,今回,実戦で使われるとなると、予測外の事態を生み出す可能性がある。 こちらの方が私には怖い。