広島・長崎と宇宙天気予報そしてウクライナの相関2022年10月16日 06:54

 広島・長崎の被ばく経験、特に放射線被ばくに関する対応方策に関し、戦術核の恐怖に怯えるウクライナ住民への適切な情報提供方法はないのだろうか。今のままでは、地下鉄内に長期間滞在するといった、非現実的で、直接の核爆発被害以上の困難を住民に強いる可能性もある。

 広島・長崎の被ばく者の被ばく線量については、京大今中哲二氏の検討資料がある。

DS02 原爆線量計算システムの概要とその検証計算
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp › DS02 › Imanaka-1

 本資料では、「被爆生存者の被曝に主に寄与しているのは、即発2次ガンマ線と遅発1次ガンマ線(FP ガンマ線)である」と記載され、広島・長崎では住民への被ばくについては、核分裂の瞬間に発生するガンマ線(即発ガンマ線)よりも、核分裂で生成した核分裂生成物の崩壊からのガンマ線(遅発ガンマ線)が被ばく線量の大部分を占めているとされている。
 ここで、即発2次ガンマ線とは、核分裂で発生した中性子が爆発物周囲の構造材や空気などの物質に吸収された際に発生する捕獲ガンマ線のことである。

 一方、原子力関係の標準的なテキストである
A.M.Weinberg、E.P.Winger,"The Physical Theory of Neutron Chain Reactors",The University of Chicago Press(1958),p.138

 によれば、核分裂による全放出エネルギ204MeVのうち、即発ガンマ線(即発1次ガンマ線)は6MeV、遅発ガンマ線は8MeVであり、同程度の寄与であるはずだ。しかも、上記の広島・長崎の遅発ガンマ線で考慮した放出時間は核分裂後30秒の間だけであり、多くの遅発ガンマ線は考慮されていない。(私計算では30秒間に放出される割合は全体の約53%)
 即ち、即発ガンマ線がガンマ線放出エネルギの大部分を占めてもおかしくはないが、なぜ、広島・長崎では即発ガンマ線の寄与は小さいのだろうか。

 それは、広島・長崎の原爆は、爆弾本体の核燃料物質(直径5㎝程度)を超臨界に保つため、周囲が厚さ30センチメートル程度の鉄材などでできた容器で覆われており、即発ガンマ線はここで遮へいされてしまったためである。遅発ガンマ線はこの容器が約1秒後に破損した結果、核分裂生成物が外部に漏洩して被ばくに繫がったものである。
 なお、山中氏論文の即発2次ガンマ線とは核分裂により発生した中性子がこの周囲の容器に捕獲された際に発生したガンマ線である。

 広島・長崎の原爆はB-29の胴体にやっと収まる程度に大きなものだったが、最近の核弾頭、特に戦術核弾頭は手で運べる程度に小さい。従って、即発1次ガンマ線による被ばくが主となると考えられる。

 しかし、広島・長崎の被ばく線量評価では、この肝心の即発ガンマ線のデータが公開されていない。代わりに、原爆の容器の外側のガンマ線束が米国側から提示されているだけである。これは、原爆の詳細が軍事機密として日本側に提示されず、放射線データの取り合い位置が容器の外側になっているためである。

 日本が最新型の戦術核の爆発による被ばく影響を評価できるようになるには、即発1次ガンマ線が原爆で実際に核燃料物質からどの程度発生し、被ばく者にどのように到達するか、また、遅発ガンマ線の被ばくとの相対関係はどうなるのか、これらの予測を精度良く行う必要がある。そのためには、上記の未だに(公式には)日本側に提示されていない広島・長崎の原爆中心部での即発1次ガンマ線の評価ができるデータを開示してもらう必要がある。

 その解析結果により、核爆発時の瞬間被ばく量及びその後の遅発ガンマ線による被ばく量の時間変化が分かり、ウクライナ住民への適切で安全な行動のための情報提供が可能となるはずである。

 今朝のNHKでは宇宙天気予報の重要性を取り上げていたが、磁気嵐の原因である太陽フレア爆発は太陽表面の核融合異常爆発である。この結果、原爆と同様、中性子が発生し、太陽の不純物である窒素などに吸収されることで即発2次ガンマ線が発生する。
 厄介なのはこのガンマ線は、磁気嵐の主要因である陽子などとは異なり、光速で地球を襲う。従って、太陽フレア爆発を検知したときにはすでに航空機のCAや乗客は被ばくしてしまっているのである。(CAに白血病が多いのはこのためではないかと思う。パイロットは航空会社ごとに太陽フレア発生時に均等に乗務したことになるよう勤務ローテーション体制を引いているらしい。)

 現在のICRP被ばく基準は年間被ばくのみの規制になっている。(一部3か月ごともあるが。)
 本当に大事なのは瞬間被ばくであり、その時の瞬間被ばくでの時間線量率がどの程度なのかである。
 蓄積した核分裂生成物からの遅発ガンマ線被ばくのような長時間被ばくは細胞の免疫機能により修復が可能である。
 しかし、広島・長崎の被ばく者データを基礎データとして用いているICRPの被ばく基準では、上記のように、即発ガンマ線の影響を明確に分離できていない。この結果、年間積分線量など、長期的な被ばく(慢性被ばく)のみが規制基準となっている。即ち、宇宙天気予報のベースとなる太陽フレアによる瞬間被ばく問題を真に解決できれば、核攻撃を想定したウクライナ支援情報もより高度で信頼できるものになる。これは世界中の人々にとっても重要なことである。

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