戦術核によるガンマ線被ばく線量評価2022年10月17日 14:39

 16日の記事に示したように、広島・長崎の被ばく線量は、現代の核兵器に適用することはできない。
 仮にTNT火薬1キロトン相当の戦術核が地表または高度500メートルで爆発したとき、地上の人間が受けるガンマ線量(即発ガンマ、遅発ガンマ)はどの程度になるのか試算してみた。
 TNT1グラムは1000カロリーで定義されるので、1キロトンでは、放出エネルギーは
 1000×1E6×1E3=1E9カロリー
 (1E1は1×10の1乗を示す。)
となる。1核分裂当たり200MeV放出されるとするとカロリーーMeVの単位換算より、
 1E9×4.184E3/1.602E-13/200=1.306E23(核分裂数)
となる。U-235で200モル相当(47キロ)である。
 Wignerのテキストp.115より即発ガンマ線の個数を5個、総エネルギーを6MeV(平均1.2MeV)として、直径100cmの球形線源から即発ガンマ線が発生すると仮定し、湿度70%の空中でのモンテカルロ透過計算を行うと、爆発中心からの距離により以下の結果となった。爆発高度は地表爆発時0.5m、上空爆発は地上500mとし、地表から10mの範囲の平均線量とした。光子束からSvへの換算はICRP勧告73とした。

被曝範囲 (km)0-0.01 0.0-0.1 0.1- 0.5  0.5-1.0 1.0-5.0
地表爆発時(Sv) 1.1E3 1.4E1  4.2E-1   9.1E-3   1.0E-5
上空爆発時(Sv) 7.8E1 8.3E1  5.7E1   2.3E1   1.6E0

この結果から、即発ガンマ線に関しては、以下の解釈ができる。

地表爆発の場合は0.1キロメートル以内では即死に近いガンマ線量である。0.5キロ離れればガンマ線による即死は免れる。但し、熱風、衝撃波による死亡はあり得る。
上空爆発(高度は長崎原爆相当、但し、戦術核なのでTNT換算で1/20となっている。)では、爆心から1キロ以内では即死、5キロ以内でも重篤な被ばくとなる。

地表爆発のほうが爆心に近いので、上記の結果は直感とは逆になっているが、これには、地面と空気の相対位置が関係している。

地表爆発では、原爆から発生したガンマ線が半分は地中で吸収される。また、空気により散乱され、地表方向に入射するガンマ線も地中で吸収され、被曝に寄与しない。

一方、上空爆発では、この地面の吸収効果が殆ど被ばく線量に影響せず、遠方までガンマ線が減衰しない。その結果、5キロ程度離れていても人体影響は大きい。

即ち、広島や長崎で原爆を上空で爆発させたのは、遠距離まで人体影響が届くようにしたとも考えられる。

なお、上記の計算モデルは、地面と空気の2層の簡易モデルであり、実際には、種々の建物、構造物、樹木等複雑な都市構造があり、その影響で大きく線量は変化する。

広島・長崎のような空中爆発では大部分の核分裂生成物はキノコ雲となって拡散するが、地上爆発では核分裂生成物が沈着し、そこから発生する遅発ガンマ線による被ばくが問題になる。しかし、地上爆発における遅発ガンマ線の影響は、崩壊の全時間で積分したエネルギー放出量(計8MeV)が即発ガンマ線の瞬時放出エネルギー(6MeV)と同程度であり、長時間かけて放出されるので、特に遠距離では大きな寄与とはならないと考えられる。

なお、ベータ線、中性子線、アルファ線による被ばく線量への寄与はガンマ線に比べ十分小さいことが広島・長崎で評価されており、地上爆発のケースであっても、爆心の近傍以外では地上構造物で簡単に遮へいされるため、無視できると考えられる。

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