世襲と家制度、生物学的平均回帰現象と進化の関係2022年10月13日 05:06

 岸田総理の秘書問題に関し、昨日のモーニングショーに出演されていた本郷和人氏によれば、政治家、医者、芸能人は3大世襲職業らしい。

 昔、医者の息子の友人がいたが、無理やり父親に医科大学に押し込められ、結局、彼の人生は悲劇的な結果に終わった。

 豊田秀樹「回帰分析入門ーRで学ぶ最新データ解析ー」東京図書(2012)によれば、イギリスの学者フランシス・ゴルドンは親と子の身長データを分析し、親が平均より背が高ければ、子は親より低くなる傾向があり、逆に親が低ければ、子は高くなるという傾向もある、即ち、子の身長は、同一環境にある住民の平均身長に戻ろうとする回帰現象を見出した。友人の父親はこの現象を信じていなかったようだ。

 この平均回帰現象は、生物界共通の現象であるらしい。進化論は環境が大きく変わり、長時間の適者選択が繰り返されない限り、進化は現実にはならないということである。(二河成男「生物の進化と多様化の科学」放送大学教育振興会(2017))

 一方、中世においては、公家、武家、寺家という3つの家系を世襲することが日本の社会制度の基本だったそうだ。即ち、家という概念が、天皇制を支えて日本の国家体制を構築してきたらしい。
 この家という概念は、必ずしも血に直結するものでもなく、側室や養子の存在を許容することもある。このシステムは家を継続し、その正統性が維持できるので、社会の安定のためには便利な制度である。単純な親子世襲より、家の跡継ぎが生物学的な平均回帰現象に陥りにくくなる。このような家制度によって、家の権威が生物学的に平均回帰し劣化していくことを、多少は防げるのかもしれない。しかし、庶民が主権者であるべき民主制に家制度がなじまないのも明白だ。
 
 本郷氏は別の著書の中で、古代中国の科挙制が日本に取り入れられなかった点を取り上げている。律令制は優秀な官僚を庶民から選出するには最高のシステムだろう。しかし、その試験が儒教知識のテストに主眼が置かれているのであれば、基本的に家系を重視する天皇制と相いれないのも明白である。

 現在の日本で科挙制に代わる理想的な政治家任用制を作るとすれば、司法試験、公務員試験、日本史試験、世界史試験、組織論試験、心理学試験、IT試験のいずれも一定のレベルの合格点が取れるだけの資質がほしいところだ。

 世襲政治家に対して、このような基本的な現代日本における政治家の基礎知識を習得させるシステムがあれば、自民党への世襲政治批判はかなり抑制されるだろう。また、平均回帰現象を多少なりとも抑制できるであろう。

 そのうち、モーニングショーの阿部俊樹氏や、本郷氏の言われるように、日本に大きな政治環境の変化や革命が生じることで、日本の政治も大きく変わるのだろう。そして、このような変化が生じれば、ダーウィンの進化論における、生物学的な進化が可能となる長期的な環境変化が生じたと言えそうだ。そのような環境変化を国民の意識変化のみで構築できるのか、外的要因によるのかが大きな課題ではある。

ふじあざみラインでのバス事故原因推定2022年10月14日 06:16

 14日昼頃に大型観光バスが静岡県小山町のふじあざみラインで横転事故を起こした。
 この事故の発生個所は、須走5合目から実質1.5車線の緊張する細道を降りてきて馬返しと呼ばれる地点を過ぎたのち、通常の2車線となった100メートルほど下った道路が、枯れ沢の上で一旦平坦になり右カーブとなった先の地点である。映像をみるとその地点の道路の左側から舗装面に向けてうすく土砂が2~3メートル流れ込んでいて、バスはその土砂に乗り上げたために横転しているようにも見える。ニュースでは左側のり面に乗り上げたための横転したと言っている。
 推測だが、運転手は、馬返しまで下りてきて、広い2車線になって緊張がゆるみ、下り坂でスピードがでたまま、現場に突っ込んだと思われる。沢を渡るところは平坦になっているので、バスはその平坦地でバウンドし、前車輪の荷重が減少する。この先は右にカーブしているので、右にハンドルを切ったが、左側面の薄い土砂に乗り上げ、スリップして横転したーという状況なのではないだろうか。
 この沢を渡る部分の平坦地は、左側から常に小富士側からの風が吹いており、細かい砂の粒子が堆積しやすい地点である。これが更にスリップしやすい要因になったと思われる。

 この地点は、冬にスキーで降りてきてもスピードをできるだけ落とさずにこの平坦面に入り、惰性で右カーブを切り、その先の数メートルの坂を登りきるという地点である。バスのタイヤには残念ながらスキーのようなエッジはついていない。
 ちなみに、エッジのない距離スキー用のスキー板では急カーブを曲がることはまず不可能で、スキー部のプロでも横倒しになってしまう。

 数年前の春にこの枯れ沢の付近は大雨に見舞われ、上流から大量の土石流が一帯を襲い、通行止めになって復旧工事が行われた箇所である。この工事で、沢の上部には大きな砂防ダムが数段に渡って構築された。

 事故時点で舗装面にある土砂は、砂防ダムの効果が届かない尾根の側面から、最近の雨の影響で流れ込んできたもののようにも見える。

 この事故は、山道から広い2車線に出て、油断した一瞬のスキをついて起こった、但し、その地点はスリップしやすい条件が揃っていたためだろう。バスのブレーキ、エンジンブレーキに不具合があった可能性も考えられるが、運転では安全そうに見えても常に緊張している必要がある。

 ただ、ブレーキやエンジンブレーキがこの地点で急に不具合が生じたとすることには疑問がある。馬返しよりも山側のほうが急でカーブが多いので馬返し以前で事故が起こる可能性が大きい。

 おそらく、馬返しを過ぎて道が広くなり、気が抜けたまま枯れ沢の地点まで十分減速しないまま突っ込み、ブレーキをかけたが、上記の理由でタイヤがスリップしてハンドルが効かないまま横転したということではないかと推定される。

(16:00修正追加)
ニュースによれば、運転手は事故直前にブレーキを数回踏んだが、効かなかったとのことである。これは、馬返し前の急坂部分までにエンジンブレーキを使わずにフットブレーキに頼って減速を継続してきた可能性がある。即ち、これは、数年前に碓氷バイパスでスキーバスが道路から落下して多数の学生が死亡した事故と同様である。
最近の大型バスのエンジンブレーキは特殊で、ギアを保護する回路とリンクしており、トラックなどとは異なって場合によっては効かない機構になっているようだ。この機構の特殊性を運転手が十分訓練、認識していたのか、確認する必要がある。)

(16日修正追加)
 15日のニュース報道によれば、運転手は400メートル前からブレーキの効きが悪くなっていたということである。また、テレビ映像では、横転地点の手前約15メートル付近の右車線から横転地点まで白いタイヤ痕が見える。
 一方、steerlink.co.jpのサイトによれば、トラックの排気ブレーキ(乗用車のエンジンブレーキが更に強力に効くよう排気バルブをスイッチにより閉める装置)では、後輪のみに作用するので、前輪がスリップしやすくなる。
 これらのことから以下の推定ができる。

 事故地点の400メートル手前というと、馬返しの上部であり、山スキーで降りてくるとそれなりに急坂でカーブが続き気持ちよく滑れる地点である。ここまで、大型バスでフットブレーキを多用して下りてきた場合、次第にフェード現象でブレーキが効きにくくなってくるはずである。
 馬返し地点を過ぎると急に道幅が広くなり、直線となるので、安心してブレーキからしばらく足を外したのであろう。しかし、スピードが出すぎて、ブレーキを踏んだが、効かず、排気ブレーキのスイッチを入れた。そのため、後輪のみが急激にブレーキがかかり、前輪が浮き気味になった。道は右カーブしており、ハンドルを右側に切ったが、事故地点では細かい土石粒が溜まっていたため、前輪がスリップしながら左斜面に突っ込んでいった。そして、横転したーという経緯ではないだろうか。

16日のニュースでは400メートル手前から事故地点まで断続的にブレーキ痕があったということである。こうなると5合目から400メートル手前の地点までの排気ブレーキの使い方が問題となる。この長い下り坂を十分エンジンブレーキを効かせないまま下りてきて、フェード現象を起こしてしまったようだ。これは、数年前の碓氷バイパス事故と同様、ギア操作のほうに問題があったと推測される。碓氷バイパス事故のバス運転手も大型バスのギア操作に慣れておらず、低速ギアにうまく入れられなかったために十分なエンジンブレーキ効果が得られなかった。そして高速でカーブに突っ込んでしまった。
これは、徐々に低速ギアに入れないと、ギア機構の破損を守るためにギアシフトダウン操作が運転手が気が付かないままキャンセルされてしまうという危険なものである。これは当時実用化されつつあった、大型バスのオートマ機構の特長である。碓氷バイパスの事故当時もこの機構の危険性は分かってはいたが、現在までに改良されてこなかのかもしれない。

(17日追加)
17日のニュースでは乗客の事故時の証言が出ていた。すでに、馬返し地点で運転手は非常事態に気が付いていたらしい。広くなった2車線道路の右側を走り、事故地点の左側の側面に意図的に突っ込んでいったようだ。こうなると上記のような排気ブレーキ、エンジンブレーキの使用方法を間違ったか、車体に何らかの異常があったかのどちらかが原因ということになる。

ロシアの戦術核利用の可能性について2022年10月14日 17:13

 ロシアの対日本報道機関スプートニク日本は10月11日付記事

「核のレトリック:虚偽報道?それともハルマゲドンは現実なのか?」
https://sputniknews.jp/20221011/13298037.html

において、ロシアの核使用はゼレンスキー大統領の夢物語であり、ロシアにはその必要性がないという見解を示している。

 この記事の筆者の趣旨は、ロシアが核を使用することで、NATOがウクライナ戦争に本格介入することになり、それがゼレンスキー大統領やウクライナに有利になるが、ロシアは通常兵器で十分勝てるのでその必要はない上に、核を使用すれば、ロシアによる占領地は汚染されて使い物にならないので核使用をすることはありえないということらしい。

 しかし、ロシア軍はウクライナ軍に押し戻されているとの報道に見られるように通常兵器戦で劣勢であり、更に、広島・長崎で示されたように空中核爆発の場合には、放射能汚染は大きな問題にはならず、復興の妨げにはならなかったということもある。
 即ち、この記事の主張は根拠が乏しく、プーチンのこれまでの言動から核使用の可能性は十分考えられる。

 このスプートニク日本の記事の後半では、更に、ウクライナは西側から戦術核兵器を手に入れようとしており、ウクライナでの核使用はロシアの核ではなく、ウクライナによる戦術核の可能性があると主張している。これは、情報戦そのもので、仮に核使用された場合のためのロシア側のPR記事ともなっている。

 ロシア政府の在日関係者は、日本向けではなく、クレムリン向けに歴史の実態に従った提言、情報提供を行うことに注力したほうがロシアと世界のためになるのではないだろうか。

広島・長崎と宇宙天気予報そしてウクライナの相関2022年10月16日 06:54

 広島・長崎の被ばく経験、特に放射線被ばくに関する対応方策に関し、戦術核の恐怖に怯えるウクライナ住民への適切な情報提供方法はないのだろうか。今のままでは、地下鉄内に長期間滞在するといった、非現実的で、直接の核爆発被害以上の困難を住民に強いる可能性もある。

 広島・長崎の被ばく者の被ばく線量については、京大今中哲二氏の検討資料がある。

DS02 原爆線量計算システムの概要とその検証計算
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp › DS02 › Imanaka-1

 本資料では、「被爆生存者の被曝に主に寄与しているのは、即発2次ガンマ線と遅発1次ガンマ線(FP ガンマ線)である」と記載され、広島・長崎では住民への被ばくについては、核分裂の瞬間に発生するガンマ線(即発ガンマ線)よりも、核分裂で生成した核分裂生成物の崩壊からのガンマ線(遅発ガンマ線)が被ばく線量の大部分を占めているとされている。
 ここで、即発2次ガンマ線とは、核分裂で発生した中性子が爆発物周囲の構造材や空気などの物質に吸収された際に発生する捕獲ガンマ線のことである。

 一方、原子力関係の標準的なテキストである
A.M.Weinberg、E.P.Winger,"The Physical Theory of Neutron Chain Reactors",The University of Chicago Press(1958),p.138

 によれば、核分裂による全放出エネルギ204MeVのうち、即発ガンマ線(即発1次ガンマ線)は6MeV、遅発ガンマ線は8MeVであり、同程度の寄与であるはずだ。しかも、上記の広島・長崎の遅発ガンマ線で考慮した放出時間は核分裂後30秒の間だけであり、多くの遅発ガンマ線は考慮されていない。(私計算では30秒間に放出される割合は全体の約53%)
 即ち、即発ガンマ線がガンマ線放出エネルギの大部分を占めてもおかしくはないが、なぜ、広島・長崎では即発ガンマ線の寄与は小さいのだろうか。

 それは、広島・長崎の原爆は、爆弾本体の核燃料物質(直径5㎝程度)を超臨界に保つため、周囲が厚さ30センチメートル程度の鉄材などでできた容器で覆われており、即発ガンマ線はここで遮へいされてしまったためである。遅発ガンマ線はこの容器が約1秒後に破損した結果、核分裂生成物が外部に漏洩して被ばくに繫がったものである。
 なお、山中氏論文の即発2次ガンマ線とは核分裂により発生した中性子がこの周囲の容器に捕獲された際に発生したガンマ線である。

 広島・長崎の原爆はB-29の胴体にやっと収まる程度に大きなものだったが、最近の核弾頭、特に戦術核弾頭は手で運べる程度に小さい。従って、即発1次ガンマ線による被ばくが主となると考えられる。

 しかし、広島・長崎の被ばく線量評価では、この肝心の即発ガンマ線のデータが公開されていない。代わりに、原爆の容器の外側のガンマ線束が米国側から提示されているだけである。これは、原爆の詳細が軍事機密として日本側に提示されず、放射線データの取り合い位置が容器の外側になっているためである。

 日本が最新型の戦術核の爆発による被ばく影響を評価できるようになるには、即発1次ガンマ線が原爆で実際に核燃料物質からどの程度発生し、被ばく者にどのように到達するか、また、遅発ガンマ線の被ばくとの相対関係はどうなるのか、これらの予測を精度良く行う必要がある。そのためには、上記の未だに(公式には)日本側に提示されていない広島・長崎の原爆中心部での即発1次ガンマ線の評価ができるデータを開示してもらう必要がある。

 その解析結果により、核爆発時の瞬間被ばく量及びその後の遅発ガンマ線による被ばく量の時間変化が分かり、ウクライナ住民への適切で安全な行動のための情報提供が可能となるはずである。

 今朝のNHKでは宇宙天気予報の重要性を取り上げていたが、磁気嵐の原因である太陽フレア爆発は太陽表面の核融合異常爆発である。この結果、原爆と同様、中性子が発生し、太陽の不純物である窒素などに吸収されることで即発2次ガンマ線が発生する。
 厄介なのはこのガンマ線は、磁気嵐の主要因である陽子などとは異なり、光速で地球を襲う。従って、太陽フレア爆発を検知したときにはすでに航空機のCAや乗客は被ばくしてしまっているのである。(CAに白血病が多いのはこのためではないかと思う。パイロットは航空会社ごとに太陽フレア発生時に均等に乗務したことになるよう勤務ローテーション体制を引いているらしい。)

 現在のICRP被ばく基準は年間被ばくのみの規制になっている。(一部3か月ごともあるが。)
 本当に大事なのは瞬間被ばくであり、その時の瞬間被ばくでの時間線量率がどの程度なのかである。
 蓄積した核分裂生成物からの遅発ガンマ線被ばくのような長時間被ばくは細胞の免疫機能により修復が可能である。
 しかし、広島・長崎の被ばく者データを基礎データとして用いているICRPの被ばく基準では、上記のように、即発ガンマ線の影響を明確に分離できていない。この結果、年間積分線量など、長期的な被ばく(慢性被ばく)のみが規制基準となっている。即ち、宇宙天気予報のベースとなる太陽フレアによる瞬間被ばく問題を真に解決できれば、核攻撃を想定したウクライナ支援情報もより高度で信頼できるものになる。これは世界中の人々にとっても重要なことである。

戦術核によるガンマ線被ばく線量評価2022年10月17日 14:39

 16日の記事に示したように、広島・長崎の被ばく線量は、現代の核兵器に適用することはできない。
 仮にTNT火薬1キロトン相当の戦術核が地表または高度500メートルで爆発したとき、地上の人間が受けるガンマ線量(即発ガンマ、遅発ガンマ)はどの程度になるのか試算してみた。
 TNT1グラムは1000カロリーで定義されるので、1キロトンでは、放出エネルギーは
 1000×1E6×1E3=1E9カロリー
 (1E1は1×10の1乗を示す。)
となる。1核分裂当たり200MeV放出されるとするとカロリーーMeVの単位換算より、
 1E9×4.184E3/1.602E-13/200=1.306E23(核分裂数)
となる。U-235で200モル相当(47キロ)である。
 Wignerのテキストp.115より即発ガンマ線の個数を5個、総エネルギーを6MeV(平均1.2MeV)として、直径100cmの球形線源から即発ガンマ線が発生すると仮定し、湿度70%の空中でのモンテカルロ透過計算を行うと、爆発中心からの距離により以下の結果となった。爆発高度は地表爆発時0.5m、上空爆発は地上500mとし、地表から10mの範囲の平均線量とした。光子束からSvへの換算はICRP勧告73とした。

被曝範囲 (km)0-0.01 0.0-0.1 0.1- 0.5  0.5-1.0 1.0-5.0
地表爆発時(Sv) 1.1E3 1.4E1  4.2E-1   9.1E-3   1.0E-5
上空爆発時(Sv) 7.8E1 8.3E1  5.7E1   2.3E1   1.6E0

この結果から、即発ガンマ線に関しては、以下の解釈ができる。

地表爆発の場合は0.1キロメートル以内では即死に近いガンマ線量である。0.5キロ離れればガンマ線による即死は免れる。但し、熱風、衝撃波による死亡はあり得る。
上空爆発(高度は長崎原爆相当、但し、戦術核なのでTNT換算で1/20となっている。)では、爆心から1キロ以内では即死、5キロ以内でも重篤な被ばくとなる。

地表爆発のほうが爆心に近いので、上記の結果は直感とは逆になっているが、これには、地面と空気の相対位置が関係している。

地表爆発では、原爆から発生したガンマ線が半分は地中で吸収される。また、空気により散乱され、地表方向に入射するガンマ線も地中で吸収され、被曝に寄与しない。

一方、上空爆発では、この地面の吸収効果が殆ど被ばく線量に影響せず、遠方までガンマ線が減衰しない。その結果、5キロ程度離れていても人体影響は大きい。

即ち、広島や長崎で原爆を上空で爆発させたのは、遠距離まで人体影響が届くようにしたとも考えられる。

なお、上記の計算モデルは、地面と空気の2層の簡易モデルであり、実際には、種々の建物、構造物、樹木等複雑な都市構造があり、その影響で大きく線量は変化する。

広島・長崎のような空中爆発では大部分の核分裂生成物はキノコ雲となって拡散するが、地上爆発では核分裂生成物が沈着し、そこから発生する遅発ガンマ線による被ばくが問題になる。しかし、地上爆発における遅発ガンマ線の影響は、崩壊の全時間で積分したエネルギー放出量(計8MeV)が即発ガンマ線の瞬時放出エネルギー(6MeV)と同程度であり、長時間かけて放出されるので、特に遠距離では大きな寄与とはならないと考えられる。

なお、ベータ線、中性子線、アルファ線による被ばく線量への寄与はガンマ線に比べ十分小さいことが広島・長崎で評価されており、地上爆発のケースであっても、爆心の近傍以外では地上構造物で簡単に遮へいされるため、無視できると考えられる。

今冬の電力危機と原発再稼働問題2022年10月18日 14:31

 報道によれば、今夏と同様、冬にも電力需要が逼迫することが予想され、政府は数基の原発を再稼働する方向で動いているとのことである。
 一方、世論調査によれば、半数程度が再稼働には反対のようである。それは、福島事故の影響が大きいだろう。政府や電力会社を信頼していないということである。
 確かに、放射性物質、放射線による人体影響はまだ正確には分かっていない部分が大きい。従って、できれば原発には頼りたくない。
 一方、再エネによる十分な発電量が確保できるかといえば、その不安定さ、コストの高さから化石燃料に頼らざるを得ない。
 そうなると二酸化炭素排出による地球温暖化のほうが問題だという考えも十分納得できる。また、Nature Japanによれば、石油・天然ガスの井戸からも放射性物質が放出されているらしい。
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13476
 地熱がトリウム、ウランの放射性崩壊によるものなのであり得る話ではある。
 このトリレンマをどう解決できるであろうか。

 その一案は、放射能フリーの原発を開発することである。完全な放射能フリーはどんな技術でも、人間でもあり得ないが(人間も4000ベクレルの放射能を体内に持っているので)、化石燃料により放出される放射能と同レベルの放射能までは許容されるはずである。これまで100年以上その放射能と共存してきたのである。
 また、農業肥料で使われている年間のカリウム肥料に含まれる放射能と同レベルの放射能も許容されるであろう。

 次の案は、停電でも凌いでいくということである。多少の死者がでても放射線被ばくを考えれば仕方がないと思うことも可能である。

 被ばく影響であれ、地球温暖化影響であれ、医学的問題、環境問題の見通しをすべて明らかにするのは不可能である。従って、電力不足問題など特に社会的な合意に関わる問題は、関連する課題に関して、できるだけ多数の国民ができるだけ詳細な知識と正確な認識を持つことで、政治的な決着をつけるしかないであろう。

 その判断が間違っていたとしても、それが仕方のない人類の選択の歴史であると思う。

 そのためには、人知を結集して、現在課題となっているあらゆる技術的問題、医学的問題の最新情報を、国民に分かりやすく開示することが最重要である。それを行うのは行政府の役割であろう。

イスラムで自殺者が少ない訳2022年10月24日 06:34

 内藤正典・中田考「イスラムが効く!」(株)三島社によれば、イスラム圏で自殺者が少ないのは、「神様が認めてくれれば、人の言うことは気にしなくても良い」という考えが浸透しており、ストレスがかららしい。
 確かに、日本では、特に若者の間では、世間やマスコミ、ネットの意見が最重要で、それに左右されながら生きていく者が大部分だろう。
 過激派の自爆テロというのは、最近の情報過多社会で反体制派が目立つための一部の流行であり、イスラムにはそのような伝統はないらしい。日本の自殺者は年間数万人だが、自爆テロは数十件だろう。
 キリスト教もイスラム教も自殺は、神から与えられた命を自分で左右するのは、神を否定するものであるという、生命観に関する共通点がある。
 
 哲学者スピノザも、エチカの中で自分の考えというものは基本的に無いものであり、すべては外部からの影響で形作られるものである。即ち、第一原因は神であり、人間の自由意志などというものは幻想であると言っている。自殺を図ろうとする人間は、誰か他人の意見に左右されて、自らを殺そうとしているに過ぎないのである。
 汎神論を唱え、ユダヤ教会を破門されたスピノザではあるが、イスラムの教えと大きな共通点があるようだ。

 では、どのようにすれば人間は神に近づけるとスピノザは考えたのか。それは、勉学による真理の追究を重ねることで、直観力を養い、宇宙や事物を直観することに尽きるらしい。

 スピノザは死ぬまで哲学書を出し続けた。誰も殺さず、自殺もせず、レンズ磨きの内職で哲学を続けただけであるが、今も大きな影響を西欧社会に与え続けているのである。

ウクライナの放射能爆弾はどの程度汚染することが可能か2022年10月28日 15:00

 報道によれば、ロシアのジョイグ国防相はウクライナが放射能爆弾で地域を汚染することを計画しているとのことである。単なる情報戦の疑いが強いが、信憑性を確認してみる。
 今、ウクライナが利用できる放射性物質で、どの程度の汚染被害が可能かを以下の仮定で試算してみた。

 ウクライナには核燃料再処理施設がないので、核分裂生成物(FP)を分離抽出することはできない。即ち、使用済み燃料をそのまま使用せざるを得ない。
 最も放射能レベルの高いのは最近停止した原子炉における使用済み燃料である。戦争の影響で、すでに停止しているはずなので、100万キロワット級原子炉の使用済み燃料が3か月停止後のレベルの放射能を持ち、一基分利用できるとする。それでも重量では百トンオーダーである。但し、ウランやプルトニウムの放射能は核分裂生成物に比べ一桁以上レベルが低いので無視する。
 以上の仮定で、一基分の放射能を求めると,
100万キロワット(熱出力は3000MWt相当)で4年運転したと仮定し、1核分裂当たり200MeV放出されるとするとMWtーMeVの単位換算より、
 3000×4×365×24×3600/1.602E-19/200=1.18E28(核分裂数)
となる。
 4年運転したということは平均崩壊期間は2年3か月となるが、この期間に崩壊熱は2桁減少するので、FP数も2桁減少するとすると、FP数は
 1.18E28×2/100=2.36E26

 福島での被ばく評価では、Cs-137が1平方メートル当たり100MBqの濃度で直径2キロメートルの範囲(3.14E6平方メートル)に散布された場合、中心の線量率は3マイクロシーベルト/毎時と見積もられている。

 上記のFPがすべてCs-137と仮定すると、Cs-137の半減期は30年なので、崩壊定数は
 ln2/(30×365×24×3600)=7.32E-10/s

即ち、上記FPは
7.32E-10×2.36E26=1.73E17Bq
に相当する。

仮に直径200キロの範囲にFPを散布できたとすると見積もり線量は
1.73E17/(200×200/2/2)×7.32E-10/1E6×3=0.04μシーベルト/毎時(0.35ミリシーベルト/年)
となる。
即ち、広範囲に散布した場合、その効果は無視できる程度である。
仮に都市圏(直径20キロ)の範囲に散布したとしても最大で35ミリシーベルト/年であり、固形がん発生のしきい値(200ミリシーベルト)以下といわれているレベルで、恐怖を感じるほどの影響はないと考えられる。

因みに某国の首都の中枢拠点( 推定直径2キロメートル)に集中的に散布できれば、更に2桁上がるので、35シーベルト/年となり、かなり致命的な値であるが、瞬時被ばくではないので即死はしない。
いずれにせよ、ウクライナ空軍には某国首都を爆撃できる能力はないだろう。

以上が、本情報がフェイクであると推定される理由でもある。

なぜヒトはヒトを押しつぶせるのか2022年10月30日 07:09

 報道によれば、韓国で坂道の将棋倒しで100名以上の死者がでたらしい。
 
 伊藤紀子等の「人体表面の圧縮特性に関する研究」
 https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjW76zQt4b7AhXcTmwGHZJ8BTAQFnoECBAQAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.jstage.jst.go.jp%2Farticle%2Fsenshoshi1960%2F26%2F5%2F26_5_204%2F_pdf&usg=AOvVaw3zdEHg5X0Ht4PgGZ7RSWwT

によればF.Scribanoらの報告(Scribano. F. et al ; U. S. Army Natic Lab. Report,No. 70 (1970))では、躯幹部の圧許容値は約2000~10000g/cm^2となっている.最大許容圧縮力をこの値として、韓国の事故時の状況を検討してみる。

 坂道に200人(20人×10列)密着して並んでおり、横倒しになったとする。ヒトを身長160㎝×30㎝×10㎝の長方形、比重1.0(体重48kg)とし、接触する体幹部の面積を100cm^2と仮定する。

 平均10人の荷重分が横倒しとなることで下の人が受ける平均応力は、
F=48000/100×10=4800g/cm^2
となり、上記許容圧縮力の平均値と同等となる。

従って、10人以上が上から重なるような状況では圧迫死の可能性が高く、今回もこのような状況にあったと推定される。

 また、接触する体幹部の面積を大きくすれば、逆比例して応力が小さくなるので、横倒しになりそうな混雑地に出かける際は、分厚いダウンなどを着用し、周辺のヒトとの実質的な体幹部接触面積を増加することが救命に繋がる。

 山スキーなどで雪崩に巻き込まれた場合、雪による圧迫死が時々起きる。雪崩用エアバッグなどによる浮力や表面積の増加だけでなく、雪崩が止まる瞬間に身体軸を鉛直方向に向けることで圧迫死を免れる確率が増えるはずである。雪崩の中で上方に泳ぐと良いと言われるが、流れの上に浮くということだけでなく、雪に埋まった時に身体軸を雪の重圧を受けない方向に向けるという意味でも重要であろう。