国際放射線防護委員会勧告の問題点2022年11月14日 06:05

LNT仮説モデルとホルミシス仮説モデル
 国際照射線防護員会(ICRP)の勧告に準拠し、日本の放射線防護関連法規の規定も定められている。従って、この勧告の妥当性が最近の原子力見直し動向における議論の基本となるべきであるが、マスコミも世論もその妥当性には無関心なように見える。
 特に、原爆被ばく者の発がんデータの低線量への外そうをどう考えるかが関係者間では常に議論になる。
 現在ICRPが勧告している評価モデルは、ICRP Publication103にも記載されているようにLNTモデルである。LNTモデルは直線外挿閾値無し(Linear Non-Threshold)モデルの略であり、人体影響を被ばく線量0まで直線外挿できるとするモデルである。
 その根拠として引用しているのがICRP Publicatin99「放射線関連がんリスクの低線量への外挿」(日本アイソトープ協会)である。こ資料の中(図2.3)で、横軸を広島・長崎被ばく者の被ばく線量、縦軸をがん発生の相対リスクとして、低線量(200mGy以下)でのがん発生率の調査結果の曲線と高線量でのがん発生率からの低線量領域直線外挿結果がほぼあっていることを示している。
 しかし、この図には大きな問題点がある。それは、がん発生率の基準となる条件である。基準となる条件は、本来、放射線の被ばくのない条件でのがん発生率となるべきである。相対リスクは被ばくした場合のがん発生率と、被曝しない場合のがん発生率の比として計算される。ところが、この図では、被曝していない場合の対象者は、実は、爆心から3000m以内の被ばく線量0の被ばく者としている。即ち、3000m以上離れた農村部での住民のデータではない。農村部の住民のがん発生率が3000m以内の被ばく者のがん発生率よりも4%ほど高いので、敢えて3000m以内の被ばく者のデータを基準としている。
 その理由として、「農村地域では放射線以外のがんリスクにさらされているかもしれないという理由から正当化された」と記載されている。これはあまりにも根拠薄弱である。
 農村部のがん発生率を基準とすると、LNT仮説は成立せず、200mGy付近に閾値があり、閾値以下では一旦リスクが負側、即ち、がん発生率が農村部より低くなり、農村部(実際に原爆による被ばく線量が0)の場合には再度がん発生率が増えることになる。即ち100mGy付近でがんリスクが最小になる下に凸の曲線になる。
 ICRPはこれを避けたくて農村部のデータを除外したのだろうと思われる。即ち、この下に凸の曲線は、ホルミシス仮説というLNT仮説とは対立する仮説なのである。
 このような問題のある勧告をベースに、我が国(多くの諸外国も同じだが)の放射線防護基準が定められているのは、この際、大いに議論されてもよいことではないだろうか。