そんなに簡単に核兵器を持つことはできない2025年03月23日 05:24

 ネットコメントや某在京テレビ局のご意見番によれば、トランプの日米安保条約軽視発言で日本も核兵器を持つべきだなといった議論を目にするようになった。

 しかし、核兵器というものはプルトニウムさえあれば簡単に作れ維持できると誤解されているようだ。これは大変な金と時間と技術が必要なのである。北朝鮮のように貧乏な国になる覚悟が必要だ。

 まず、日本が保有しているプルトニウムは爆発しない。ちょっと燃焼するだけである。これはプルトニウム240という自然に核分裂し中性子を出す同位体が20%以上混ざっているためである。どうしてそれが混ざると爆発しないかと言えば、核分裂することで熱膨張し、原子核間の距離が広がって中性子が漏洩するため、すぐに未臨界になるためである。原子炉が爆発しないのはその効果によるものが半分は占めている。(福島の爆発は燃料を包んでいる被覆管が高温水と化学反応した結果で生じた水素の爆発で核爆発ではない。)そのため、映画オッペンハイマーにあったように、原爆ではこの熱膨張を抑えるためにプルトニウムの塊の外側から、プルトニウムが臨界になると同時に、周囲においたTNT火薬を爆発させてプルトニウムに内向きに大きな圧力をかけることで©超臨界を一定時間維持し核爆発を生じさせているのである。このプルトニウム塊の外側からの火薬による圧縮を一般に爆縮と称している。日本のプルトニウムはオッペンハイマーのアリゾナ砂漠での実験や長崎の原爆のプルトニウム240の10倍以上の比率を持っているので、TNT火薬の量はその100倍以上必要である。長崎原爆の図を見れば、それはB-29はもちろん、ジャンボでも運べない直径10メートルは超える代物になる。運べない原爆を作ってもかえって自国が危険になるだけなのである。

 では、どうやって北朝鮮や米ソはミサイルに搭載できる核兵器を作ったのか。

 一つはプルトニウム240比率が極端に小さいプルトニウムを数年かけて専用原子炉で製造したのである。オッペンハイマーの時代には数年間でやっと2発分のプルトニウム原爆ができただけなので、長崎が失敗したら米ソ冷戦には無意味になるところだった。トリニティ原爆も長崎原爆も直径2メートル近い物で、後者はFatmanと呼ばれていたがB29には載ってもICBMには載せられない重量物であった。

 そのため、米国では核兵器プルトニウム製造専用の原子炉を10基以上建設し、プルトニウム240比率の小さいプルトニウムを長期間かかて作ったのである。さらに戦後、CIAがソ連から盗んだあるレアアースをプルトニウムに混合することで爆発時の熱膨張を抑制する合金化技術である。

 しかし、これだけでは十分ではない。爆縮技術を高度化する必要がある。オッペンハイマーの時代にはテラーという天才が高度な爆縮技術を開発したが、それでも1メートルは必要だった。その後ロスアラモス研究所で、水爆の原理を応用したプルトニウム原爆と水爆の原理を組み合わせた複雑な爆発制御技術を開発し、徐々に小型化を進めていったのである。この技術が開発される前に、オッペンハイマーはっプルトニウムで米ソ冷戦を戦う困難さを主張し、ソ連のスパイとして裁判にかけられたのが映画でも描かれている史実だ。その困難さを想像すると精神的におかしくなるのも理解できる。このような開発ができる天才が現在の日本で現れる確率は相当低い。
 当時のアメリカは欧州からヒトラーに追われた天才的な科学者が多数いた。その中からテラーに加えウラムという大天才が現在につながるk型化核兵器を発明したのである。その装置はプルトニウムの爆発による高温高熱状態で水素の核融合を生じさせ、そこから発生する中性子を反射させてプルトニウムの核分裂をさらに増加させる正のフィードバック機構を10のマイナス7乗秒という短時間で制御して利用しているのである。これで遠距離から核攻撃が可能になった。

 ただし、これらの新型核兵器で絶滅できる範囲は直径10キロ程度である。現在の米ロの所有核兵器をすべて使っても地球の陸地面積の1%以下である。数発で他国に脅威を与えようとすれば、ロケットの制御技術が核兵器技術以上に重要になる。

 このような核兵器体系を開発するには優れた制御技術と高精度の機械的、電気的製造技術が必要だがそんなものは現在の日本には存在しない。開発するにしても十年はかかる。北朝鮮のように、白昼他国人を誘拐できるような諜報員が世界中にいる国でもそうなのだから日本ではもっと時間がかかるだろう。

 爆発時の熱膨張を抑制するレアアースにしても日本はないに等しい。ほとんどが中国からの輸入である。レアアースの管理は厳しい、核兵器に利用するレアアースを輸出してくれる国が世界のどこかにあると核武装論者は本気で思うだろうか。北朝鮮のように国家が密輸する国はできるかもしれないが。

 そんな不経済でリスクのあることをしているので北朝鮮のように経済は疲弊するのである。ソ連は米ソ冷戦による軍事費増大のために経済が破綻した。中国はソ連の技術を譲渡されただけだし、ウクライナは核兵器の維持の大変さを知っているのでロシアに引き渡したのである。米国は核兵器体制維持のために膨大な軍事費が必要になり、現在は、トランプの発言にみられるように他国の防衛まで面倒は見ないという状況になった。

 これらの主要因は核兵器の維持には非常に金がかかることにある。なぜなら、まず、プルトニウムというものは放射性物質なので崩壊していく。プルトニウムはリンゴや野菜と同じ生ものである。プルトニウムに含まれるプルトニウム241の半減期は14年である。これが最初に2%あったとしても、14年で1%に自然に減るのである。遅発中性子割合という爆発に必要な反応度(臨界性を示す指数)は0.4%である。これだけ臨界性が減ったら爆発しなくなる。従って、最近報道でたまに見かけるが臨界前核実験という爆縮を簡易的に模擬し、爆発に必要な臨界性が維持できているか定期的に実験しているのである。

 では、その核兵器が爆発できなくなるとわかったらどうするか。腐ったリンゴと同様廃棄せざるを得ない。現在、世界には1万発以上の原爆があるが、過去に製造された原爆はその10倍はある。それは爆発できない状態のまま、廃棄解体されたことになっている。(詳しくは多田将「核兵器」明幸堂参照)

 その原料ですらレアアースを含め現在の日本には自給するすべはない。日本の軽水炉では原爆用プルトニウムの生産も不可能である。

 こんな不経済な防衛システムに予算をかけてどうするのだろうか。米国ですらその負担にあえいでいる。日本は外交努力と経済力の増強で他国から侵略されにくい国になる道しかない。北朝鮮のような国になるというなら話は別だが。
 
 小国では、防衛リスクはどうやっても生じるが、核兵器を持つことによるリスクのほうが持たないリスクよりも大きいのは明らかだ。

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