なぜヒトはヒトを押しつぶせるのか2022年10月30日 07:09

 報道によれば、韓国で坂道の将棋倒しで100名以上の死者がでたらしい。
 
 伊藤紀子等の「人体表面の圧縮特性に関する研究」
 https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjW76zQt4b7AhXcTmwGHZJ8BTAQFnoECBAQAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.jstage.jst.go.jp%2Farticle%2Fsenshoshi1960%2F26%2F5%2F26_5_204%2F_pdf&usg=AOvVaw3zdEHg5X0Ht4PgGZ7RSWwT

によればF.Scribanoらの報告(Scribano. F. et al ; U. S. Army Natic Lab. Report,No. 70 (1970))では、躯幹部の圧許容値は約2000~10000g/cm^2となっている.最大許容圧縮力をこの値として、韓国の事故時の状況を検討してみる。

 坂道に200人(20人×10列)密着して並んでおり、横倒しになったとする。ヒトを身長160㎝×30㎝×10㎝の長方形、比重1.0(体重48kg)とし、接触する体幹部の面積を100cm^2と仮定する。

 平均10人の荷重分が横倒しとなることで下の人が受ける平均応力は、
F=48000/100×10=4800g/cm^2
となり、上記許容圧縮力の平均値と同等となる。

従って、10人以上が上から重なるような状況では圧迫死の可能性が高く、今回もこのような状況にあったと推定される。

 また、接触する体幹部の面積を大きくすれば、逆比例して応力が小さくなるので、横倒しになりそうな混雑地に出かける際は、分厚いダウンなどを着用し、周辺のヒトとの実質的な体幹部接触面積を増加することが救命に繋がる。

 山スキーなどで雪崩に巻き込まれた場合、雪による圧迫死が時々起きる。雪崩用エアバッグなどによる浮力や表面積の増加だけでなく、雪崩が止まる瞬間に身体軸を鉛直方向に向けることで圧迫死を免れる確率が増えるはずである。雪崩の中で上方に泳ぐと良いと言われるが、流れの上に浮くということだけでなく、雪に埋まった時に身体軸を雪の重圧を受けない方向に向けるという意味でも重要であろう。