前立腺がん治療の選択方法2024年01月08日 13:18

 ある知り合いが前立腺がんの診断を受け、近く手術をするそうである。親戚が前立腺がんになったのだが、IMTRという放射線治療で緩解したので、放射線治療のほうがいいのではないのか、という話をしたら、放射線は怖いというのである。
 
 ちょっとデータが古いが、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/radioisotopes1952/52/7/52_7_363/_pdf

によれば、例えば子宮頸がんは日本では8割以上が手術だが、日本では2あり程度である。東大の中川先生の言われるように原爆による放射線アレルギーが強いようだ。どこかの音楽関係者もそのような発言をしていたように思う。

 では、原爆による放射線とがん治療による放射線は同じなのだろうかーという話になる。実は、原爆よりも放射線がん治療のほうが被ばく放射線量は1桁程度高いのである。広島・長崎の被爆者生存者の最大線量は約4Gyである(これより多く被ばくした人は原爆時に亡くなっているのである)が、例えば前立腺がんでは通常60Gy程度照射する。

 だからがんになりやすいのかと言えば事実は逆である。広島・長崎の生存者で4Gy程度被ばくした男性の約6割はがんを発症している。しかし、前立腺がんで放射線治療をした人の8割は治癒し5年以上せいぞんしている。

 これはどうなっているのかーという問題である。その理由は、単純に言えば、原爆の被ばくは原爆の爆発時間約1ミリ秒で被ばくした瞬時被ばくであり、がん治療での被ばくは10時間程度での被ばくの結果なのである。
 
即ち、被ばく線量は問題ではなく、被ばくした時の時間線量率が重要なのである。上記の例でいえば、単位時間当たり線量率は、

 原爆   :4000Gy/秒
 がん治療:0.0016Gy/秒

ということになる。この差がなぜ大きいのかと言えば、細胞の免疫機能に関係してくる。

 原爆では瞬時に被ばくし、DNA損傷を瞬間的に生じたので、がん抑止機能が十分機能しなかったのである。免疫とは化学反応であり、DNA修復には有限の時間がかかるので、損傷を受けた細胞がどうしても残ってしまう。
 このような瞬時被ばくは人類が発生して以来一度も受けたことがない線量率なのだから、免疫機能が機能しなくても当然である。

 一方、がん治療では、がん細胞以外の通常細胞に被ばくさせないように工夫しているとはいえ、X線の透過力は強くどうしても通常細胞も被ばくしてしまう。それでも明確ながん発症は見られていないのである。これは、生物、人類が数億年の期間に蓄えてきた低線量率放射線に対する免疫機能故のことである。がん細胞の方は、がん免疫機能を失った細胞であり、細胞サイクルが短いので、分裂時にDNAが損傷しやすく(分裂時はDNAが不安定な1本鎖になるので)、がん組織だけが選択的に損傷することになる。

 これらのメカニズムを含めて、がん患者に説明すれば、日本も放射線治療を受ける割合が欧米並みになるだろうが、医学界の様々な事情で時間はかかるのかもしれない。

 一方、がん細胞の位置を検査するためのPET検査で使われるテクネチウム-99mは体内に注入されたのち、テクネチウム‐99という半減期20万年の放射性物質に崩壊する。この放射性物質は年間2×10の12乗ベクレルという量が、注入された患者の排泄物から市中に拡散している。放射線がん治療が嫌な患者はこちらの方はなぜ問題にしないのだろうか。不思議な国である。医学界ではこのテクネチウム₋99は安定核種として扱われているようだが、れっきとした長半減期放射性核種である。原発使用済み燃料の中のテクネチウム‐99は長寿命核種として、使用済み燃料を地中処分したとしても、将来漏れ出てくる核種として問題にされている。不思議な国である。

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