モリブデン‐99の運命の分かれ目2024年03月15日 05:09

モリブデンという元素がある。天然のモリブデンは大部分がモリブデン‐98という陽子と中性子の合計が98個からなる原子核でできている。この数字が異なる原子核のことをその元素の同位体と称している。例えばモリブデン‐97とモリブデン‐98はモリブデン(Mo)の同位体である。

モリブデン‐99は放射線を発して崩壊するので、現在、地球上では天然には存在せず、ウランの核分裂の際に生成される。このため、使用済み核燃料から分離抽出される。

 このモリブデン‐99(Mo-99と略記)は半減期66時間で崩壊し、テクネチウム-99m(Tc-99m)というテクネチウム同位体になる。これがガンマ線を放出して半減期6時間でテクネチウム-99(Tc-99)に変わる。
 モリブデンとテクネチウムは化学特性の異なる金属である。また、99mと99の差はガンマ線が放出できるだけの内部エネルギーを有していることである。

 テクネチウム-99mは決まったエネルギーのガンマ線のみを発生するので、がんなどの検査における医療診断で最もよく使われて、SPECT検査と略称されている。

テクネチウム-99は、更に半減期21万年で電子線を放出し、ルテニウム-99(Ru-99)という安定同位体になる。

纏めると

 U-235(核分裂生成物の2.8%)→Mo-99(半減期66時間)→Tc-99m(半減期6時間、SPECT検査に利用)→Tc-99(半減期21万年)→Ru-99安定

ということになる。

この崩壊系列は、医療用のSPECT検査に利用されようがされまいが、物理現象なので同じことになるが、実用上はヒトの社会で差別待遇を受ける運命にある。

 オランダの同位体生産用原子炉の核燃料内で生成し、たまたま分離されて、医療用に利用されたモリブデン-99は人々から歓迎される貴重品として飛行機で運ばれ、日本で(又は世界各国で)がん検査などのために患者に注入される。その患者からはガンマ線が発生するが、1日程度でほとんどがテクネチウム-99となる。半減期21万年なので医療の世界では一応安全なものとして、患者は退院し、尿から環境に広がる運命となる。

 一方、核燃料内に残ったモリブデン-99は同様に数日以内にほとんどがテクネチウム-99になるが、これは使用済み燃料廃棄物として処分の対象となり、核のゴミとして人々から忌み嫌われる運命となる。日本では地層処分され、環境からは隔離されることになる。

 このヒトの都合で偶然、異なる運命を持つことになるモリブデン‐99はどちらが幸せなのだろうか。一見がん治療に役に立つとして歓迎されるが、実態としては現時点で環境を汚染している可能性のあるモリブデン‐99があり、一方、核のゴミとしてがんの原因と恐れられるが、環境に漏洩する可能性は数万年後と言われるモリブデン‐99もある。これが現代の原子力利用の現実ということになる。

環境への金属元素の放出で問題になるのは、生態系内での特定生物への蓄積の問題なので、医龍業界関係者はテクネチウムの医療機関外での分散動向を生態系での挙動も含め調査、公表すべきである。

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