オーケストラを奏者の後方から聴いてみたら2024年03月24日 06:44

 昨日、オーケストラを大ホールで聴いた、或いは拝見したともいえる。
その座席がオーケストラの後ろの2階席である。

 初めての経験なので、いろいろ面白かった。
打楽器奏者が良く見えるのである。あの撥さばき(瞬間的に撥を取り換えないと追い付かないし、一瞬の手の滑りが演奏には致命的な影響を与える。その見ていての緊張が臨場感を高める。

 また、金管奏者は、時折、管の一部を外して、床に向けて振っている。これは中にたまった水分を切っているのではないだろうか。それも演奏の合間なので、結構緊張感がある。

 打楽器も、金管も迫力を持って、弦楽器よりも大きな音で聞こえるので普段とは違って、寝ることはなかった。(済みません、これまでは気持ちが良かったので寝てしまっただけです。)

 そういうわけで、素晴らしい経験だった。指揮者の表情や身振りもよくわかり見ていて楽しい。

 ただ、次回もその席で聞きたいかと言えば、やはり、音のバランスが通常の前方の席とは異なっていて違和感があった。指揮者が聞いている音とは異なるのだから、指揮者が意図した音楽にはなっていないのかもしれない。

 次回は前方、上部の席で聞いてみようと思う。

伊達政宗は弟を討たなかった!2024年02月21日 02:40

二つの伊達政宗関係の本がある。
(1)小林清治氏の人物叢書「伊達政宗」(吉川弘文館、1985年)
(2)佐藤憲一氏の歴史新書「素顔の伊達政宗」(洋泉社、2012年)

(1)の人物叢書では、江戸時代に伊達藩が公式記録としてまとめた貞山公治家記録の記述に沿って、政宗が弟の小次郎を手打ちしたことになっている。信長や信玄、謙信、家康などが身内を粛清したのと同様、戦国武将は身内すら敵になるという思い込みのストーリーに沿っている。それが戦国武将の武士道ということらしい。

しかし、(2)の歴史新書では、貞山公治家記録での不自然さに疑問を持ち、独自に調査して、政宗に反発した小次郎は、政宗と母義姫の計らいにより、出家し、その後武蔵五日市の大悲願寺で住職の法印秀雄になったのが事実だと記載されており、それを裏付ける寺の関係書簡まで明記している。
 
歴史認識とは時代により変わるということで、事件の後、1985年よりも2012年のほうが、より真実に近づくことができた例である。

身近なところでは、警察官の思い込みのストーリーで発生した冤罪事件が、その後のDNA鑑定技術などの科学技術の進歩により、捜査内容が覆されてより真実に近づくことになった例に似ていると言えよう。

これらは、歴史も、犯罪捜査も、分かりやすいストーリーにしたがった方が大衆受けはするのだろうが、真実は別のところにあったという話になる。

誤解を招く放射能用語2024年01月31日 04:48

 基本的な用語が誤解を招くことは多い。
 放射能関係では、よく言われる放射線と放射能の使用時の混乱があるが、それは専門学者の責任でもある。

 放射線は正しくは電離放射線であり、物質を電離できるだけの高エネルギーを有する放射線である。
 一方、放射能は、放射線を発生できる能力をいうが、転じてその能力を有する物質も放射能と言ってしまう。これは正しくは放射性物質である。
 従って、放射性物質と放射能(放射能力)を混同しないで使用することが重要である。

 更に、半減期なる用語がある。これもかなり誤解を招く。放射性物質が半減するまでの期間なのだが、この減という漢字が間違いともいえる。
 減ったりはしない。別の物質に変換されるだけなのである。従って、半減期は「半変期」という用語の方が誤解を招かない。

 セシウム-137の「半変期」は30年である。30年で半分がバリウム-137に変換されるだけなのである。

 地球の年齢は、主にマントルに含まれるウラン-238(半変期45億年)と崩壊(実際には変換)してできる鉛-206(安定核種)の比率から推定できる。
 即ち、地球が出来たときから、ウラン-238(陽子数と中性子数の合計が238のウラン)は崩壊していき、α線とβ線を出しながら鉛-206(陽子数と中性子数の合計が206の鉛)に最終的に変換される。
 鉛-206への変換割合が時間により決まっているからこそ、逆に地球の年齢が46億年と推定できるのである。最初に100個のウラン-238があり、その約半数、50個が鉛-206になっていれば、46億年経過したことになる。(半減期45億年と46億年の差は丸め誤差である。)

 このように地球上の生命体は大地からも多くの放射線を浴びながら生存してきた。これは年間最大でも数百ミリシーベルトでの慢性的な被ばくである。
 しかし、20世紀に入り、ヒトは文明の進化の結果、二つの特殊な放射線を浴びることとなった。一つは、原爆による瞬間被ばくであり、もう一つは航空機利用による太陽フレア発生時の高空での瞬間被ばくである。これら二つの被ばくにより統計的に有意ながん発生の増加が報告されている。

 今年から太陽フレアの活動期に入るそうである。航空機利用は必要最小限にしたほうが良いかもしれない。

前立腺がん治療の選択方法2024年01月08日 13:18

 ある知り合いが前立腺がんの診断を受け、近く手術をするそうである。親戚が前立腺がんになったのだが、IMTRという放射線治療で緩解したので、放射線治療のほうがいいのではないのか、という話をしたら、放射線は怖いというのである。
 
 ちょっとデータが古いが、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/radioisotopes1952/52/7/52_7_363/_pdf

によれば、例えば子宮頸がんは日本では8割以上が手術だが、日本では2あり程度である。東大の中川先生の言われるように原爆による放射線アレルギーが強いようだ。どこかの音楽関係者もそのような発言をしていたように思う。

 では、原爆による放射線とがん治療による放射線は同じなのだろうかーという話になる。実は、原爆よりも放射線がん治療のほうが被ばく放射線量は1桁程度高いのである。広島・長崎の被爆者生存者の最大線量は約4Gyである(これより多く被ばくした人は原爆時に亡くなっているのである)が、例えば前立腺がんでは通常60Gy程度照射する。

 だからがんになりやすいのかと言えば事実は逆である。広島・長崎の生存者で4Gy程度被ばくした男性の約6割はがんを発症している。しかし、前立腺がんで放射線治療をした人の8割は治癒し5年以上せいぞんしている。

 これはどうなっているのかーという問題である。その理由は、単純に言えば、原爆の被ばくは原爆の爆発時間約1ミリ秒で被ばくした瞬時被ばくであり、がん治療での被ばくは10時間程度での被ばくの結果なのである。
 
即ち、被ばく線量は問題ではなく、被ばくした時の時間線量率が重要なのである。上記の例でいえば、単位時間当たり線量率は、

 原爆   :4000Gy/秒
 がん治療:0.0016Gy/秒

ということになる。この差がなぜ大きいのかと言えば、細胞の免疫機能に関係してくる。

 原爆では瞬時に被ばくし、DNA損傷を瞬間的に生じたので、がん抑止機能が十分機能しなかったのである。免疫とは化学反応であり、DNA修復には有限の時間がかかるので、損傷を受けた細胞がどうしても残ってしまう。
 このような瞬時被ばくは人類が発生して以来一度も受けたことがない線量率なのだから、免疫機能が機能しなくても当然である。

 一方、がん治療では、がん細胞以外の通常細胞に被ばくさせないように工夫しているとはいえ、X線の透過力は強くどうしても通常細胞も被ばくしてしまう。それでも明確ながん発症は見られていないのである。これは、生物、人類が数億年の期間に蓄えてきた低線量率放射線に対する免疫機能故のことである。がん細胞の方は、がん免疫機能を失った細胞であり、細胞サイクルが短いので、分裂時にDNAが損傷しやすく(分裂時はDNAが不安定な1本鎖になるので)、がん組織だけが選択的に損傷することになる。

 これらのメカニズムを含めて、がん患者に説明すれば、日本も放射線治療を受ける割合が欧米並みになるだろうが、医学界の様々な事情で時間はかかるのかもしれない。

 一方、がん細胞の位置を検査するためのPET検査で使われるテクネチウム-99mは体内に注入されたのち、テクネチウム‐99という半減期20万年の放射性物質に崩壊する。この放射性物質は年間2×10の12乗ベクレルという量が、注入された患者の排泄物から市中に拡散している。放射線がん治療が嫌な患者はこちらの方はなぜ問題にしないのだろうか。不思議な国である。医学界ではこのテクネチウム₋99は安定核種として扱われているようだが、れっきとした長半減期放射性核種である。原発使用済み燃料の中のテクネチウム‐99は長寿命核種として、使用済み燃料を地中処分したとしても、将来漏れ出てくる核種として問題にされている。不思議な国である。

航空機でのリスク回避2024年01月06日 07:09

ある元ANA機長のはなしでは、事故回避で重要なのは、クルーの関係の心理的安定感だそうだ。

海上保安庁のOBと話をしたこともあるが、基本的に海の警察そしきである。

ドラマを見ていると 警察組織は縦関係が絶対的に強い。
それが今回の事故機の副機長の役割に影響していた可能性は無いだろうかと思う。

ビッグバンとダークマター、ダークエネルギーの誤解2023年12月28日 06:41

  ビッグバンとは宇宙の始まりは空間の一点が爆発し膨張するというモデルであるとばかり思っていた。これなら、無限の宇宙空間という想像すらできない実在の無限を考える必要がないので、気楽に宇宙が語れる?。

 しかし、放送大学の宇宙の誕生と進化の講義(須藤靖先生)では、それは誤解だという。即ち、光の速度が有限なので、138億年前のビッグバンの直後の宇宙背景輻射による光が天球のすべての方向から来ているのが観測されるのは、ビッグバン時も宇宙が一点から膨張したわけではないことを示している。(ビッグバンという用語は、ビッグバン宇宙論を提唱したガモフの理論をトンデモだと揶揄した学者がつけた名前であり、ガモフは爆発だとか一点から膨張したとかいうことは一言も言っていない。単に膨張して冷却される過程で宇宙のあらゆるものができてきたというモデルである。)

 138億年より昔の時空はどうだったかについては、講義では、「恐らく」その外側にも宇宙は広がっているので、将来、その外側の宇宙も見えるはずだということである。

 ここで、やはり、無限の概念に戻らなければならないのは残念だが仕方ない。それで、宇宙の果てはどうなっているのかについて、今も天文学者は口を濁しているように見えるのだろう。


 さらにダークマターやダークエネルギーの概念である。これはブラックホールとは関係ない、ましてや、ブラック企業とは全く無縁の概念である。宇宙の拡大速度や重力バランスを考えると、現在観測で推定される宇宙の物質では説明がつかず、その数十倍の物質が宇宙には存在しているはずだということで、それがダークマターである。

 また、ダークエネルギーとは、一般相対性理論で、アインシュタインが宇宙の膨張速度を説明するために付け加えたいわゆる宇宙項と深く関係しており、万有引力ではなく、実効的に斥力に相当するエネルギーが宇宙項である。この結果、宇宙の膨張速度は加速しているのである。即ち、現在の想定ではダークエネルギーにより宇宙の膨張が加速しているということになる。

 驚くべきことに宇宙の既知の物質は宇宙エネルギーの5%だけであり(物質とエネルギーは等価だというのが相対論であるが)、残りの95%はダークマターとダークエネルギーだということである。

 この世の95%は未知の部分であるということでますます宇宙論が楽しくなってきた。

広島・長崎の被ばく者データを見直す必要性2023年12月23日 05:09

放射線に絡む全ての社会現象は、国際放射線防護委員会(ICRP)の被ばく防護に関わる勧告・指針に依拠した法律・基準に大きく影響されている。今回の福島事故処理水放出騒ぎも同じである。

この大元であるICRP勧告自体が間違っている可能性が大きい。その被ばく基準の科学的根拠は、広島・長崎の被ばく生存者のがん発生調査に大きく依存している。しかし、広島と長崎では、放射線量とがん発生率の関係が異なっている。それが単に定量的に違うだけならまだよいが、定性的にも違う。即ち、広島ではある線量範囲でがん発生率が減少するのに、長崎では増加しているのである。その時の比較対象者は、原爆投下時に各市の中心から20キロ以上離れた市外位置住民であり、被ばく線量は0と評価されている。

なぜこのようなことが生じるのか、原因は二つ考えられる。

一つは、調査データに不整合がある場合である。例えば、市外位置住民のがん発生データの見積もり方と被ばく住民ではがん発生数の評価方法が両市の間で異なっていた事が考えられる。
がん発生数と言っても単純では無い。そのがんが、同一人の別の場所から転移したものか、無関係に次のがんが発生したものかは、当時の医学レベルでは医師により判断が異なっていたことは大いにありうる。
被ばくゼロでのがん発生数が数倍異なれば、被ばく効果は逆転しうるのである。なぜなら、被ばく以外の効果が勝るからである。その多くは、喫煙によるもので当時は多くの日本人が、女性も含め喫煙習慣があった。がんが喫煙によるものか、被ばくによるものか、新陳代謝によるものかは今でも分からない。

更に両市で異なるのは、原爆のタイプである。広島は濃縮ウラン型で、長崎広島はプルトニウム型である。このため、原爆の構造が大きく異なる。ガンマ線の被ばくが線量の多くを占めるとはいえ、中性子の寄与がどのていどだったのか、地形の影響がどうなのか、今でも議論のあるところである。悲しいことに、軍事機密ということで、その評価の詳細は、米国から日本にはかいじされていない。当時はソ連との冷戦が予想されており、トルーマン大統領が、簡単に大量生産できると思ったプルトニウム型の実験を長崎ですかさずやりたがってのは理解できなくも無い。
しかし、線量評価の詳細、特に、ファットマン原爆の構造も含めて日本側に開示すべきだろう。今も、肝心の放射線線源データは簡単な1ページの表のみであり、担当は米国人に限られている。

もう一つの要因としては、被ばくデータやがん発生データが正しいとしても、その統計処理法が、間違っている場合である。

例えば、喫煙効果と放射線効果は個別のものとして評価されているいる。タバコには、燐酸肥料を通して花崗岩にあるポロニウム210という放射性物質が含まれている。この喫煙にがん発生は、喫煙効果なのか、被ばく効果なのか判然とはしない。仮に、両市の住民のタバコ原料に違いがあれば、原爆の被ばく影響と喫煙効果を混同した評価になっていても不思議ではない。

いずれにせよこのような疑問点だらけのICRP基準でマスコミや政府が福島事故や原発を議論している事態を見直すことから始めなければ日本に将来は無い。日本は科学技術しか頼れない資源小国なのだから。

リンゴの時間がかからないカット方法2023年12月15日 07:21

 リンゴを切って食べるわけであるが、どんな切り方がよいか。

 時間がかからない最適法は以下のようになる。

(1)外側を水洗いする。

(2)横方向に赤道付近を真二つに切り、つぎに縦に2分割する。

(3)ヘタを三角にカットする。(下半分の場合はお尻をカット)

(4)種部を三角にカットする。

(5)お好みに応じて薄切りする。

これだけである。従来縦割りをして種を穿り出していたが、カット時間は三分の一になった。

 ポイントは(4)である。一般的な縦割りでは、種が中心にくるのでカットに時間がかかるが、横割り後、2分割では種が端にくるので時間がかからないということである。縦割り後2分割でも同じように思うが、最初に種部を切る時に力を入れる必要がないので楽に時間を掛けずにカットできる。

JCO事故で中性子被ばくはどの程度だったか?2023年12月10日 05:45

 東海村役場に乗用車で突入した容疑者は1999年のJCO事故で体調を崩したと話しているという。

 原子力安全委員会のJCO事故の報告書では、

  「今回の作業は「常陽」の燃料用として、平成11年度に濃縮度18.8%、ウラン濃度380gU/㍑以下の硝酸ウラニル溶液を転換試験棟において製造することを目的としていた。
 作業は3人で実施され、29日から硝酸ウラニル溶液の製造を開始している。本来であればウラン粉末を溶解塔で硝酸を加えて溶解すべきところを、ステンレス容器(10㍑)でウラン粉末を溶解した後、作業手順書をも無視して、ステンレス容器(5㍑)及び漏斗を用いて、1バッチ(作業単位:2.4kgU)以下で制限して管理すべき沈殿槽に7バッチ(約16.6kgU)の硝酸ウラニル溶液を注入したとしている。
 上記の作業の結果、9月30日午前10時35分頃、沈殿槽内の硝酸ウラニル溶液が臨界に達し、警報装置が吹鳴した。この臨界は、最初に瞬間的に大量の核分裂反応が発生し、その後、約20時間にわたって、緩やかな核分裂状態が継続したものであった。10月1日午前2時30分頃から、沈殿槽外周のジャケットを流れる冷却水の抜き取り作業が開始され、午前6時15分頃、臨界状態は停止した。その後、ホウ酸水を注入し、午前8時50分には臨界の終息が最終的に確認された。
 この臨界による総核分裂数は、沈殿槽内の残留溶液の分析結果から、2.5×1018個と評価されている。 」

 これから即発臨界による瞬間被ばくであることがわかる。

 また、ガンマ線被ばくについては、
 
 「今回の事故により現場で作業をしていたJCO社員3名が重篤な被ばくをし、うち1名が12月21日に死去した。これら3名の線量はそれぞれ16~20グレイ・イクイバレント(GyEq)以上、6.0~10GyEq、1~4.5GyEq程度であった。このほか、56名の被ばくが確認された。そのうち36名についてはホールボディ・カウンタで検出され、その値は0.6~64mSv(暫定値)であった。また、フィルムバッジの測定結果により22名の被ばくが確認され、その値は0.1~6.2mSv(1cm線量当量)(ガンマ線)であった。なお、フィルムバッジで検出された22名のうち2名はホールボディ・カウンタでも検出されている。
また、臨界状態の停止のための作業等に従事したJCOの社員24名について、被ばくが確認され、ホールボディ・カウンタで検出された者の値は9.1~44mSv(暫定値)で、線量計(ポケット線量計)で測定された者の値は0.03~120mSv(1cm線量当量)(暫定値)であった。」

 とのことで、ガンマ線の被ばくは広島・長崎の被ばく者評価から、がん発症影響に関するしきい値(一部放医研研究者などの見解では150mSvと言われている)以下の値であったと考えられる。

 では、中性子被ばくはどうだっただろうか。

 容疑者は役場の対応に不満を持ったようだが、心理的影響だと切り捨てる前に、ICRP基準で、吸収線量当たりガンマ線の10倍程度の影響があると言われている中性子線に対する被ばく評価を正確に見積もる必要はあるだろう。

 Weinburg/WignerのThe Physical Theory of Neutron Chain Reactors、p.128によれば、U-235の核分裂当たりのエネルギ配分は、即発ガンマ線のエネルギーは6±1MeVで、中性子の運動エネルギーは5MeVである。
  
 一方、ICPRの線質係数は、ガンマ線1に対し、中性子約10(正確には線質係数には中性子エネルギー依存性があるが)である。

 これから、JCO関係生存作業者の中性子線による被ばく線量は、最大でおよそ

 120×5/5×10=1200(mSv)

となる。この報告書からは、ガンマ線を120mSv被ばくした作業者は、爆発時に室外にいたはずで、中性子はこれほどは被ばくしていないはずである。爆発時には室外(コンクリート壁の外側)にいたからである。

 では、容疑者はその時、どの程度被ばくしただろうか。最大1200mSvとして、JCO事業所からどの程度はなれていたかが問題となる。

 建屋や空気の遮へい効果を無視すれば、ほぼ距離の2乗の逆数で減衰する。容疑者はJCO社員ではないはずだから、敷地境界の外部にいたはずである。報告書図1からは事故のあった転換試験棟から県道連絡線まで約60mである。上記JCO社員が線源から10m位置で作業していたと仮定すると、容疑者が被ばくできる最大中性子線量は

 1200×(10^2/60^2)=33mSv

であり、上記のしきい値より十分小さい値となっている。
 ある情報では容疑者は久慈地区に住んでいたようであり、その場合には距離は1000m以上あるので0.1mSvとなり、飛行機で海外旅行をするよりも小さい。

 役場職員はこのような定量的評価値を容疑者に示した方が説得力はあったかもしれない。

 福島事故でも同じだが、放射線被ばくとは、物理化学的影響よりも心理的影響、即ち”放射線プラセボ”(放射線を浴びたという認識によるストレス影響)が効いてくるものである。今回のような思い込みによる悲劇の再発を防ぐには、放射線の人体影響及び人体の対放射線免疫機能に対する正確な知識習得と公報、ICRP基準と考え方の見直しが必要であろう。メディアも従来の報道姿勢を改め、まずは科学的な分析能力を身に着けるべきだ。

プラセボと放射線プラセボ2023年11月06日 09:52

https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat04/3071/
によれば
「プラセボ効果とはプラシーボ効果の別称で、有効成分が含まれていない薬剤(偽薬、プラセボともいわれる)によって、症状の改善や副作用の出現が見られること。 偽薬効果ともいわれる。 プラセボ効果が起こる理由は明らかになっていないが、暗示や自然治癒力などが背景にあると考えられている。」

米国には、医療費高騰を抑えるにはこのプラセボ効果を利用するのが重要だとの提言、論文もある。

 同様に放射線プラセボというものも考えられる。放射線の心理的効果によりがんなどの疾患が発生するかもしれないと不安になり身体的に影響が現れる事である。

 しかし、佐渡敏彦「放射線と免疫・ストレス・がん」、医療科学社P.474によれば、

 「現在までにチェルノブイリ原発事故の被災者について得られた放射線の被ばくによる健康影響については、放射線の直接的な影響より心理的なストレスや生活習慣の変化による影響のほうが大きく、しかもその影響は発がんリスクよりは、むしろ精神医学的な影響に起因する健康障害のほうが大きいように思われる。 原発事故の被災者については事故発生後かなり早い段階から精神医学的影響が注目されているが少なくとも、事故発生後25年が経過した現時点までは、精神医学的な問題をかかえている集団でがんの発生率が増加したという報告はない。 私の考えでは、原発事故周辺で懸念されるのは、恐らく、すでに高い自然発生率を示す発がんリスクがさらに増加するというよりは、心理的な不安ストレスによるアロスタティック負荷(長期的な生理学的ストレスにより蓄積された悪影響や消耗状態)へのさまざまな健康障害のリスクが増える可能性である。」

と否定的に記載されてはいる。
しかし、発がんの原因というものは現在の医学では明確な説明ができないことが多い。
 放射線プラセボ、即ち、放射線を被ばくしたと感じた住民がうつなどの精神的影響によりがんを発症する可能性も考えられる。

この放射線プラセボともいうべき事態を防ぐには、放射線に対する正しい知識の普及が大切だと思う。特に、基準の根拠があいまいなLNT仮説による様々な被ばく基準や規制の中で生活してきた日本人の大部分は、福島のイノシシ等と同様にヒトも放射能を体内に保持していることすら理解してはいない。

放射線プラセボを防ぐための様々な知識が一般化するには三世代くらいはかかるかもしれないが、生物学の知識とともに環境や地球の知識も十分に習得されなければならない。