ALARAの欠陥2023年12月06日 04:58

 国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告している指針の中に、ALARA(As Low as reasonably achievable)という、「達成可能な範囲でできるだけ被ばく線量を低下させるべきである」という原則がある。
 これは一見正しいように見える。

 しかし、このALARA原則にはある大きな欠陥がある。それは、時間線量率を無視しているところにある。

 広島・長崎の原爆では、1ミリ秒以下という短時間で数グレイの被ばく線量を受け、数十%のレベルでがんが発症した。この被ばく時間が1年間だったなら、がん発症は大幅に低下したはずである。これは下記の動物実験結果などから容易に推定される。

Maisin JR, AWambersic, GB Gerber, G Mattelin, M Lambiet-Cottier, J Gueuletteet. The effect of a fractional gamma irradiation on life shortening and disease incidence in BALB/c mice. Radiat Res. 94, 359-373, 1983.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6344131/

分かりやすく言えば、一気飲みのアルコールのほうが、年間10升の酒を飲むよりも大幅に危険だということである。

 しかし、ICRPの基準に従って、健康診断で使われるX線撮像装置を改良し、被ばく量を小さくするには、X線投射時間を1/10に短くして、その分、X線強度を5倍に上げたほうが被ばく線量が半分にできるので良いはずである。
 
 このような改良は、ALARA原則には適合しているが、上記の動物実験結果からは危険な改良ということになる。なぜなら、被ばく量は小さくなったが、時間線量率は5倍になっているのである。

 ALARA原則は時間線量率については触れていない。危険な原則と言わざるを得ない。

 福島事故では被ばく線量の制限のみを考慮してICRP基準を適用し、避難区域を設定したが、そのICRP基準も広島・長崎原爆被ばく者のデータを基にしたものである。時間線量率と時間積分線量の差を認識しない基準に基づいて法律や政策が設定されている悲劇が続いているが、健康診断装置の方はどうなのだろうか。

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