ペロシ氏の台湾訪問は本当に藪蛇なのか2022年08月11日 06:59

 40年ほど前、米国に滞在していたころ、その会社の同僚の中に台湾から亡命してきた中国人がおり、台湾独立運動を行っており、親日派でもあった。当時はまだ国民党が大陸から台湾に逃げてきて、台湾住民に強圧的な政治をした影響があり、戦前の日本統治時代のほうがマシだと彼は考えていたのであろう。
 
 今月初めに、米国のペロシ下院議長が台湾を訪問したが、米国政府や日本国内の有識者からは、中国との関係を悪化させ、台湾問題という寝た子を起こすから止めるべきだったという反対意見が強い。

 現在の中華人民共和国政府の言い分は、台湾はもともと中国の一部であり、第2次世界大戦後の国民党と人民軍の主導権争いで負けた国民党が台湾に逃げ延びたということである。
 しかし、上記の独立派の主張のようにそれ以前から台湾は独立していたのであり、日本の占領ののちに、国民党に占領されただけであるという主張も十分理解できる。

 これは、欧州のクリミア半島にも逆の意味で当てはまる。即ち、プーチンが主張しているように、クリミア半島の住民の多くはロシア系であり、本来ウクライナの土地ではなかったが、ソ連の東欧一体化政策の後遺症で、一時的にウクライナ政府に支配されただけであるので、クリミア半島はロシアに戻るのが当然だという主張である。

 このプーチンの主張を受け入れるならば、台湾は、もともと独立しており、一時的に中国本土の政治勢力が支配しただけであるので、中国本土とは一体ではないという主張に妥当性があるのである。

 ロシア語とウクライナ語は、東京弁と青森弁よりも近い関係にある。中国の各地方の言語と台湾で現在使用されている中国語も似たようなものであり、言語と国の関係は複雑で、言語が国を分ける指標にはなりえない。

 では、何が国を形成するのか。ペロシ氏の信念は、民主主義と自由が第一であり、例え国際紛争のネタになろうともそれを追求し、台湾が、現在のウクライナの二の舞にならないようにすることに繋がるという考えであろう。
 しかし、米国政府や軍関係者は中国との力関係を考えて、中国と全面戦争できるほどの戦力差はないと考えたからこそ、ペロシ氏の訪問に反対したのだろう。

 歴史的に見れば、台湾以前にチベット問題があった。1959年のチベット動乱では人民軍が無防備のラサに攻め入り占領した。ダライラマ14世はインドに亡命し、いまや旧チベット政府や数世紀に亘るダライラマ統治は消えようとしている。即ち、中国の武力による他国侵略は歴史的な事実でもある。そのチベット動乱の際、米国は何もしなかったというのがダライラマ14世をはじめ、チベット住民の多数が思っていることである。

 自由と独立を標榜するならば、ペロシ氏の台湾訪問は例え中国政府を強く刺激することになろうとも、このロシアによるウクライナ侵攻の時点で中国の覇権主義への警告として国際社会が受け入れなければならない試練であり、当然、日本も中国と台湾の双方に明確な意思表明をすべきだろう。

 それは一つの中国というのは幻想であり、現在の国際連合の常任理事国制を見直すことを世界中に認めさせることから始めなければならない。

 以上のように、このような難しい国際問題、歴史問題に対する結論はゼレンスキー大統領の主張と同じになった。それ以外に地域紛争を防ぐ手段はない。即ち、ゼレンスキー大統領の認識とは、地域紛争は核大国が核戦争をせずにかつ自国の利益を守る代償として起こってきたものであるという認識である。それが、台湾でも起こるかもしれないということをペロシ氏は無意識に思っていたのだろう。