BNCTが未来のがん治療法なんだって!?2024年06月24日 19:12

 今日(6月24日)午後のテレビ朝日のドクターXの再放送ではBNCT(ホウ素中性子捕獲療法)によるがん治療が取り上げられていた。BNCTは、ホウ素薬剤ががん細胞に集中する性質を利用し、体外から照射した中性子がホウ素と核反応して発生するアルファ線など飛程の短い粒子により、がん細胞のみを選択的に死滅させる治療法である。
 https://stella-pharma.co.jp/bnct/

 この番組のシナリオで治療対象が甲状腺がんとしている事に対してはステラファーマ社から誤解をまねくとのコメントが出ている。
 https://stella-pharma.co.jp/blog/1353/

 しかし、より大きな誤解を招くこの番組の問題点は「BNCTが未来の治療法である」というセリフが数回あったことである。

 ステラファーマ社の解説(下記サイトのBNCTの歴史参照)にあるように、海外では1930年代から、日本でも1960年代から500症例以上の治療実績がある。BNCTはドクターXでも手術困難な脳内に拡散した脳腫瘍や頸頭部がん、体内各部に転移した末期がんでも治療可能な治療法として注目されていた。
 https://stella-pharma.co.jp/bnct/

 それがなぜ、2020年代まで実用化が遅れたのか。それは原子力離れの世情が大きく影響している。

 1960~70年代にかけて、原研JRR-3や武蔵工大炉、京大炉などで研究用原子炉の中性子を利用した、手術困難ながん患者へのBNCT治療が行われていた。

 しかし、その後の日本国内の原子力への逆風の影響もあり、これらの研究炉の多くは廃炉に追い込まれ、原子炉中性子によるBNCT治療の開発ができる場所がなくなっていった。

 原子炉が利用できないため、住友重機など加速器メーカーによる加速器で発生する中性子を用いたBNCTシステムの開発が行われ、2020年代になってやっと実用レベルの中性子強度が加速器でも得られるようになったのである。

 研究用原子炉による中性子束レベルよりも加速器による中性子束レベルが5桁以上小さかったため、なかなか治療に使える中性子発生装置が加速器では実現できなかった。しかし、近年、主に加速器の中性子発生部分(加速された陽子が金属板に衝突するターゲット部分)の構造改良が進み、数時間の照射で治療効果が得られるレベルまで、システムが改良できたのである。患者を何日間も加速器の横にじっと寝させておく事は不可能である。

 問題は、加速器の製造コストが高く、その原価償却費用が大分部分を占めるため一人当たりの治療費も実質的に数百万円レベルになることである。この費用の低減のためには、照射可能な患者数を増やせるよう、加速器の中性子レベルをさらに2桁程度はあげたいところであるが、ターゲットの冷却の問題がクリティカルになり、簡単には安くできない。

 加速器に比べ、研究用原子炉の中性子束レベルは3桁以上は大きいきいのである。もし、研究用原子炉が各地に設置され、BNCT治療が可能になれば、患者当たり数万円レベルの費用で多くのがん患者がこの治療を受けることが可能になる。

 この点も含めて日本人の原子力利用への考え方、マスコミの報道姿勢が見直される必要がある。
加速器でもある程度の放射能は発生しているのである。更に陽子加速のための大量の電力も必要である。一方、がん治療に伴う医療費の大幅削減も急務である。

 原子炉によるBNCT治療法開発を行っていた武蔵工大炉は、高度成長期に周辺が宅地化され、その近隣住民の反対運動で廃炉に追い込まれた。こういう歴史を忘れてはならない。