電子スピンのモヤモヤを消す方法2024年08月27日 07:19

 デビッド・ランドリー(松浦俊輔訳)「量子力学の奇妙なところが思ったほど奇妙でないわけ」(青土社)には、シュテルン・ゲルラハの磁石実験(上下方向の磁場を持つ磁石のスリットを通って上下方向に分けられたスピンをもつ電子の中の上方向のスピンをもつ電子が、次の左右方向の磁場を通ると過去のスピン方向を忘れて左右方向のどちらかのスピンに分けられるという実験)が紹介されている。

 電子スピンとはなにかという説明は
https://www2.kek.jp/imss/news/2020/topics/0110Spin5/
に丁寧に解説されている。

 ここには、電子スピンの概念を最初に提案したパウリ自身がこのスピンという命名に反対したことが書かれている。スピンは自転のことであり、右回りと左回りの2種類しかないので、直感的には分かりやすい。電子は太陽の周りの惑星のように原子核の周りを公転し、更に自転もすると想定すれば磁気に反応する電子の挙動が理解しやすいため、電子スピンという概念が受け入れられたのであろう。

 しかし、パウリが述べたように電子スピンとは電子の自転ではなく、磁気特性の概念には方向性は持たないと考えたほうがシュテルン・ゲルラハの磁石実験の直感的理解には役立つ。

 即ち、最初から電子には自転(スピン)というものは存在しないのである。単に上下方向の磁場を持つ装置が電子の持つ特殊な磁気特性を引き出しただけである。シュテルン・ゲルラハの磁石実験の第2ステップでは左右方向の磁場を持つ装置が電子の持つ左右方向への磁気特性を引き出したのである。第1の装置と第2の装置は互いに独立な装置なのであり、電子が自転という方向性を持っていようといまいと、磁場と電子の相互作用の結果として、装置に適応した二種類の磁気特性、即ち、上下方向の方向性、左右方向の方向性を装置の方向性に合わせて表すことができたに過ぎないーと考えればよい。

 また、第1ステップの装置で上下に分かれたはずの電子の一方だけ(上向きスピンをもつ電子)を選んで入射した次の左右向きの装置で、左右方向の二つの磁気特性を示したのか。

 これも、電子の発信源の原子核から電子を分離する電子銃があらゆる方向の磁気特性を有しているとすれば、あらゆる方向の磁場装置に対応してその装置に応答できるからであるーと考えれば左右方向の磁場装置に対して左右方向の磁気特性(即ち、左右方向のスピン方向とも理解できる)を示したということである。

 第一の磁場装置で任意の電子が上下どちらかのスピン方向に決まるということは量子力学では、波動関数の縮退という現象ということになっているが、縮退するのであれば、第2の磁場装置の入り口で膨張し出てくるときは再度縮退する現象があると想定しても無理はないはずである。なぜなら、エネルギーは保存されているので量子力学との矛盾は生じないからである。即ち、電子が出会った磁場装置に合わせて量子状態が変わっただけだと理解することができるからである。