Tc-99はどこに消えたのか?(その2)2024年04月12日 06:55

 Tc-99(テクネチウム-99)はテクネチウムという人工元素の同位体のひとつで、陽子と中性子の合計が99個の同位体である。

 この同位体は、一般にはウランー235の核分裂で生成されるモリブデン‐99という同位体を核分裂生成物の中から化学分離し、更に自然崩壊することで生成するテクネチウム-99mがガンマ線を放出して生成される同位体である。

 テクネチウム-99mとテクネチウム‐99の差はその原子核が励起しているかどうかの差であり、テクネチウム‐99mは141KeVのガンマ線を放出し、半減期6時間でテクネチウム-99に変わる。

 SPECT検査(SinglePhotonEmissionComputedTomography)という核医学検査においては半減期が短く、且つ、放出されるガンマ線が一種類であることが検査を行うのに適している。テクネチウム‐99mはこの条件によく適合しているので、9割以上のSPECT検査で使用されている。日本では、2017年度に300TBqのテクネチウム-99mが使用された。
(久保他、核医学ノートp.21、金原出版)

問題となる可能性のあるのは、テクネチウム-99mが患者に注入(一般には静注)された後、回収が難しいために、崩壊したテクネチウム-99が患者から体外に排出されることである。それが検出可能かどうか。

 上記書P.108 によれば、脳血流SPECT検査では、テクネチウム-99m370~740MBq静注後、5分以内にSPECTを行うが、一日後にはほとんどがテクネチウム‐99に崩壊する。テクネチウム-99は半減期22万年の長半減期核分裂生成物であり、使用済み燃料廃棄物の地層処分で問題となる同位体と同じものである。(元々モリブデン‐99が核分裂生成物から分離したものであるので当然同じものが医療用でも生成する。)

 では、例えば370MBq注入された患者の保有テクネチウム-99の放射能はどの程度かと言えば、半減期の比、3.1E-9を乗じた値。、即ち、1.2Bqなのである。これが体外に放出されても、水で薄められれば検出は不可能になる。

 放医研の下記報告では、環境中のテクネチウム-99の検出限界は
約0.3mBq/lだそうである。4リットルの水で薄められれば患者からの排泄物から検知はできなくなるということである。

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/33/1/33_1_35/_pdf

 しかし、日本全体では年間300TBqのテクネチウム-99mが使用されているので、テクネチウムー99としては年間93万Bqが環境に排出される。これは毎年蓄積していくので、地層処分で問題となる1000年後での蓄積量は930MBqということになる。1000年後に環境中で検出されたテクネチウムー99が、地層処分された核廃棄物から漏洩したテクネチウムなのか、医療用テクネチウムからのものなのか、区別ができなくなることが問題になるかもしれない。

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