広島原爆と長崎原爆の差 ― 2024年08月07日 07:10
米国が何と言おうと原爆投下は人体実験だった。或いは冷戦に備えた米国の予備実験だった。
それは、広島に投下したLittleBoyが濃縮ウラン原爆でほぼ確実に爆発することが分かっていたのだが、ウラン濃縮は時間と費用が膨大にかかる。一方、長崎に投下したFatmanはプルトニウム原爆なので濃縮の手間がいらないが、自発核分裂するプルトニウム-240の混合が避けられないので、不完全爆発の可能性が排除できない。(北朝鮮の最初の原爆実験はこの不完全爆発のために失敗したと美られる。)
当時の米国の対ソ連戦略としては、両者を日本で実験し、できればプルトニウム型の技術を確立しておきたい。そこで、広島に投下した後、日本国内の終戦の議論が深まらないうちに日にちを置かず長崎にプルトニウム原爆を投下したと見られる。日本人としては許せない所業である。
この差は、原爆生存被ばく者のがん発生率データにも見られる。
下記の表は、以前放影研より公開されていた各市毎の原爆男性生存者を対象に、被ばく線量と固形がん発生率の関係を統計解析コードRにより解析したものである。
この解析では5mGy以下の被ばく者を被ばくの影響がなかったベースラインと仮定して、被ばく線量範囲の上限を20mGy~3400mGyまで拡大した場合のERR(Excess Relative Risk、即ち、がん発生率の相対値から1.0を引いたもの)を解析した例である。線量以外にがん発生には喫煙や年齢など多くの関係因子があり、これらは個別に考慮することで、Rでは線量による影響のみをERR線量偏回帰係数として抽出できる。
これで見ると、広島では300mGyに閾値がありこれ以下ではERRに対する線量偏回帰係数が負になり、がん発生率がベースラインよりも小さい、即ち、ホルミシス効果が生じていることを示している。一方、長崎では、80mGy以下に閾値があるように見える。但し、統計精度(p-value, 一般には0.05以下であれば信頼できる数値と言われている)にはかなり差がある。p値は被ばく者の人数やがん発生の絶対数に依存する数値である。いずれにせよ、両市で線量偏回帰係数の傾向に大きな差があることがわかる。
なお、白血病については、発症数が少ないためにp値が大きくなり、従来被ばく影響に対する評価は定まっていない。
この原因はどこにあるのか。検証したいところであるが、線量自体が米国側の担当になっており詳細は不明である。日本側は軍事機密という理由で評価に携わることができないままである。このようなデータが現在の放射線被ばく基準のベースデータとなっていることが残念である。
即ち、線量が高いときは有意の相関があるが、低線量範囲では不確かさが大きいという理由から、全線量範囲に対する偏回帰係数を用い、線量0でERRが0となるという仮定(LNT仮定と言われている)を使って、現在のICRPや各国の被ばく制限が設定されている。
両市の男性被ばく生存者の固形がん発症リスクとERR線量偏回帰係数の関係
線量範囲 ERR線量偏回帰係数 解析精度
(mGy) ERR /Gy p-values
広島 長崎 広島 長崎
5-20 -4.8892 4.9897 2.10E-01 5.61E-01
5-40 -5.5532 -6.8660 1.34E-03 1.60E-02
5-60 -1.5180 -2.5905 1.67E-01 2.32E-01
5-80 -1.5374 -0.9157 5.33E-02 6.09E-01
5-100 -0.7881 0.0167 2.31E-01 9.92E-01
5-125 -0.7885 0.2034 1.38E-01 8.80E-01
5-150 -1.2086 0.5073 5.36E-03 6.62E-01
5-175 -1.1759 0.3871 1.81E-03 6.89E-01
5-200 -0.6830 0.1367 4.96E-02 8.68E-01
5-250 -0.5470 -0.8711 6.41E-02 1.01E-01
5-300 -0.1923 0.0213 4.44E-01 9.66E-01
5-500 0.0989 -0.2899 5.70E-01 2.82E-01
5-750 0.2096 -0.1890 1.11E-01 2.81E-01
5-1000 0.3039 0.0677 6.39E-03 6.20E-01
5-1250 0.3300 0.1407 6.55E-04 2.55E-01
5-1500 0.2549 0.0971 2.38E-03 3.44E-01
5-1750 0.2790 0.2206 4.14E-04 3.17E-02
5-2000 0.3296 0.2364 1.96E-05 1.80E-02
5-2500 0.3668 0.2328 1.63E-07 1.08E-02
5-3000 0.3650 0.2631 3.15E-08 2.98E-03
5-3400 0.3720 0.2738 1.74E-08 2.12E-03
このように、福島事故を含め、米国の壁により科学的、技術的データの真相がわからなくなることはよくある話である。
例えば、事故を起こした福島第一原発を米国GEから導入する際、日本で原子力関連会社の社長をしていた土光敏夫は非常用電源の配置も含め、設計チェックをしたいとGEに申し入れたが、GEからは設計変更をするならば日本には輸出しないと言われ、政府、東電もGEの言い分を受け入れたため、津波対策を考えない配置設計のままであったのが、3.11を引き起こした可能性がある。
米国の対ソ核戦略の犠牲になったのは広島・長崎の被ばく者だけでなく、その被ばく者データの基となる線量データが上記のように不明確なまま、ICRP基準で福島事故時の避難措置を講じ、震災関連死を生じた。二重、三重の米国による災難を受けたことになる。
それは、広島に投下したLittleBoyが濃縮ウラン原爆でほぼ確実に爆発することが分かっていたのだが、ウラン濃縮は時間と費用が膨大にかかる。一方、長崎に投下したFatmanはプルトニウム原爆なので濃縮の手間がいらないが、自発核分裂するプルトニウム-240の混合が避けられないので、不完全爆発の可能性が排除できない。(北朝鮮の最初の原爆実験はこの不完全爆発のために失敗したと美られる。)
当時の米国の対ソ連戦略としては、両者を日本で実験し、できればプルトニウム型の技術を確立しておきたい。そこで、広島に投下した後、日本国内の終戦の議論が深まらないうちに日にちを置かず長崎にプルトニウム原爆を投下したと見られる。日本人としては許せない所業である。
この差は、原爆生存被ばく者のがん発生率データにも見られる。
下記の表は、以前放影研より公開されていた各市毎の原爆男性生存者を対象に、被ばく線量と固形がん発生率の関係を統計解析コードRにより解析したものである。
この解析では5mGy以下の被ばく者を被ばくの影響がなかったベースラインと仮定して、被ばく線量範囲の上限を20mGy~3400mGyまで拡大した場合のERR(Excess Relative Risk、即ち、がん発生率の相対値から1.0を引いたもの)を解析した例である。線量以外にがん発生には喫煙や年齢など多くの関係因子があり、これらは個別に考慮することで、Rでは線量による影響のみをERR線量偏回帰係数として抽出できる。
これで見ると、広島では300mGyに閾値がありこれ以下ではERRに対する線量偏回帰係数が負になり、がん発生率がベースラインよりも小さい、即ち、ホルミシス効果が生じていることを示している。一方、長崎では、80mGy以下に閾値があるように見える。但し、統計精度(p-value, 一般には0.05以下であれば信頼できる数値と言われている)にはかなり差がある。p値は被ばく者の人数やがん発生の絶対数に依存する数値である。いずれにせよ、両市で線量偏回帰係数の傾向に大きな差があることがわかる。
なお、白血病については、発症数が少ないためにp値が大きくなり、従来被ばく影響に対する評価は定まっていない。
この原因はどこにあるのか。検証したいところであるが、線量自体が米国側の担当になっており詳細は不明である。日本側は軍事機密という理由で評価に携わることができないままである。このようなデータが現在の放射線被ばく基準のベースデータとなっていることが残念である。
即ち、線量が高いときは有意の相関があるが、低線量範囲では不確かさが大きいという理由から、全線量範囲に対する偏回帰係数を用い、線量0でERRが0となるという仮定(LNT仮定と言われている)を使って、現在のICRPや各国の被ばく制限が設定されている。
両市の男性被ばく生存者の固形がん発症リスクとERR線量偏回帰係数の関係
線量範囲 ERR線量偏回帰係数 解析精度
(mGy) ERR /Gy p-values
広島 長崎 広島 長崎
5-20 -4.8892 4.9897 2.10E-01 5.61E-01
5-40 -5.5532 -6.8660 1.34E-03 1.60E-02
5-60 -1.5180 -2.5905 1.67E-01 2.32E-01
5-80 -1.5374 -0.9157 5.33E-02 6.09E-01
5-100 -0.7881 0.0167 2.31E-01 9.92E-01
5-125 -0.7885 0.2034 1.38E-01 8.80E-01
5-150 -1.2086 0.5073 5.36E-03 6.62E-01
5-175 -1.1759 0.3871 1.81E-03 6.89E-01
5-200 -0.6830 0.1367 4.96E-02 8.68E-01
5-250 -0.5470 -0.8711 6.41E-02 1.01E-01
5-300 -0.1923 0.0213 4.44E-01 9.66E-01
5-500 0.0989 -0.2899 5.70E-01 2.82E-01
5-750 0.2096 -0.1890 1.11E-01 2.81E-01
5-1000 0.3039 0.0677 6.39E-03 6.20E-01
5-1250 0.3300 0.1407 6.55E-04 2.55E-01
5-1500 0.2549 0.0971 2.38E-03 3.44E-01
5-1750 0.2790 0.2206 4.14E-04 3.17E-02
5-2000 0.3296 0.2364 1.96E-05 1.80E-02
5-2500 0.3668 0.2328 1.63E-07 1.08E-02
5-3000 0.3650 0.2631 3.15E-08 2.98E-03
5-3400 0.3720 0.2738 1.74E-08 2.12E-03
このように、福島事故を含め、米国の壁により科学的、技術的データの真相がわからなくなることはよくある話である。
例えば、事故を起こした福島第一原発を米国GEから導入する際、日本で原子力関連会社の社長をしていた土光敏夫は非常用電源の配置も含め、設計チェックをしたいとGEに申し入れたが、GEからは設計変更をするならば日本には輸出しないと言われ、政府、東電もGEの言い分を受け入れたため、津波対策を考えない配置設計のままであったのが、3.11を引き起こした可能性がある。
米国の対ソ核戦略の犠牲になったのは広島・長崎の被ばく者だけでなく、その被ばく者データの基となる線量データが上記のように不明確なまま、ICRP基準で福島事故時の避難措置を講じ、震災関連死を生じた。二重、三重の米国による災難を受けたことになる。
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