化学の曖昧さを克服する2025年11月26日 05:38

化学は高校以来あまり好きにはなれなかった。

亀の子記号の複雑な結合と物質名の関係をイチイチ記憶する気になれなかったし、その結合の仕方に法則性も感じられなかったからである。

また、酸性―アルカリ性を表すpHがなぜ0から14までなのかという疑念も試験嫌いな私の心の奥でトラウマのように渦巻いていた。(大げさすぎるか?)

その化学の曖昧さを最近受け入れることができるようになった。そのきっかけは放送大学のインターネット授業の「初歩からの化学」(講師安池 智一放送大学教授、鈴木 啓介東京工業大学栄誉教授)である。

その第3回授業に化学結合を統一的に説明するという内容の講義があり、その中で以下のような説明がある。

(1)元素ごとに電気陰性度という電子との親和力を示す指標があり、その電気陰性度の差の絶対値が二つの元素の結合の種類と関係するというものである。

各元素の電気陰性度の差の絶対値が

0~0.4なら共有結合
0.4~2.0なら極性共有結合
2.0~4.0ならイオン結合

ということになっている。この数値の差も曖昧であるし、結合の区切りも曖昧なのだが、ポイントは結合の原因である。これが第2回授業の解説でもあるように量子論で説明されるものだからである。

即ち、量子論のように確率的な存在であるのが電子の実態であると理解(承服)できれば、その曖昧さ、電子のやり取りを通した結合の様態の曖昧さも受け入れられる(と思い)明確さを諦められる。

このような理解で化学の曖昧さを克服したのであった。

核のゴミからレアアースを大量に取り出す方法2025年11月18日 06:37

嫌われているいわゆる核のゴミ(放射性廃棄物)には種々の核分裂生成物が含まれているが、その大半は非放射性である。

核分裂生成物にはレアアースも大量に含まれている(レアアース全体は装荷燃料重量に対し約2.1%)が、最重要なネオジウムNdはどうだろうか。

モンテカルロ法で高速炉でネオジウムの核分裂による収率を計算すると
装荷燃料重量に対し3年で0.62%となった。その同位体の内訳は

       同位体比  半減期
Nd-142   8.16E-03  安定
Nd-143   2.67E-01  安定
Nd-144   1.80E-01  2.4E15年
Nd-145   1.87E-01  安定
Nd-146   1.82E-01  安定
Nd-147   1.92E-03  11日
Nd-148   1.10E-01  安定
Nd-150   6.46E-02  安定

このうち、放射性のものはNd-144とNd-147だが、Nd-144は天然のNdにも含まれており、これを問題にするとネオジウムは使えないことになる。
(地球が超新星核爆発の生成物なのでこのような半減期240兆年の核種も残ってしまう。ただ、半減期が長いので崩壊はほとんどしない、即ち、放射能は微小で被ばくは無視できるのである。)
N-147は半減期11日であるが、1年保管すれば最初の11桁下の放射能となり、これも無視できる。

従って、再処理工場で年間800トンの使用済燃料を処理できる予定なので、年間約5トンのネオジウムを抽出できることになる。

これを地層処理してしまうのは経済安保の点からもモッタイナイことと言えるだろう。

イットリウム(第5族レアアース)の作り方2025年11月14日 06:26

11月3日のレアアースはランタン族に絞った作り方であった。

ここでは同様に第5族レアアースであるイットリウムについて検討した。

周期律表上でこのイットリウムの左側にあるストロンチウムは地殻存在比がイットリウムより一桁大きい金属であるが、これを中性子照射してベータ崩壊を利用すればイットリウムが生じる。
有名なストロンチウム90も生じるがこれは化学的金属分離で除去できる。

モンテカルロ計算で、小型高速原子炉の炉心内にイットリウム(安定な酸化イットリウムの形態にして中性子照射をするとその生産量はどの程度になるか評価してみた。照射期間は3年である。反応率を上げるため、減速材(水素化ジルコニウム)を10%酸化バリウムに混入する。

レアアースの中でも重要なイットリウムの生成率を装荷したストロンチウムとの重量比でリストすると以下のようになる。
     
照射期間(年) 0       1      2      3

ストロンチウム    1.00E+00   9.99E-01   9.97E-01   9.96E-01
イットリウム      0.00E+00   1.06E-03   2.23E-03   3.37E-03

即ち、ストロンチウム装荷量の0.34%のイットリウムが生成される。
ストロンチウムは大型炉心の周囲に約1tonは装荷できると考えられるので、イットリウムの生成量は3年で約3kgとなるが、将来、原子炉基数を100程度まで増加できれば、合計300㎏を国内生産できることになり、リサイクルの活用も含めれば経済安保上の貢献は大きい。

また、半減期の短い(2.67日)イットリウム90も微量(10の-6%)生成されるが、これは骨髄がんや関節炎などの治療に適用される放射性治療薬としても需要が見込まれ、安価ながん治療薬として各国で開発が進められており、医療費低減にも役立つと思われる。

金属分離法を用いたレアアース増産方法2025年11月12日 05:15

11月3日のレアアースの作り方では、酸化バリウムを単純に長期間中性子照射することでネオジウムなどのレアアースを製造する方法での評価であった。

しかし、これは多段の中性子吸収反応とベータ崩壊によりネオジウムを製造するので効率が良くない。

ここではこの方法を改良し、バリウムからランタンを分離し、これを新照射用集合体として炉心に装荷した場合にどの程度製造効率が上がるかを検討した。条件は小型高速炉で3年照射後、酸化バリウムとレアアース金属の混合体を取り出し、ランタンのみ分離し水素化ジルコニウム減速材と混合して、再度同じ小型高速炉に装荷してに3年照射する方法である。

モンテカルロ法によるこの場合のネオジウムまでの生成率を装荷ランタン量の比率で示す。
照射期間(年)     0       1       2        3
                       
ランタン        1.00E+00  3.37E-01  1.09E-01   3.67E-02
セリウム        0.00E+00  6.48E-01  8.46E-01   8.83E-01
プラセオジム     0.00E+00  8.81E-03  1.68E-02   2.00E-02
ネオジウム      0.00E+00  5.78E-03  2.82E-02   5.90E-02

即ちこの場合のネオジウムの生成率はランタンに対し、3年で5.9%であるがランタンの生成率が11月3日の記事からバリウムの2.63%だったので
バリウムから見れば0.155%である。

それでも直接バリウム照射で生成される比率0.068%の2倍の生成率となる。

なお、ランタンの生成率が2.63%と小さいので、照射用集合体は1体で済む。即ち、バリウムの場合は100体レベルの集合体の装荷が必要だが、ランタンなら1~2体で済む。これは最初の3年間以降はバリウムとランタンの同時照射が可能となるので、3年ごとに生成されるネオジウムの量が前回方法の2倍以上になるということになる。

この方法をセリウム、プラセオジムにも適用すれば、3年ごとのネオジウムの生成率は更に増大するはずである。これはネオジウム生成までに他の金属元素に吸収される中性子量を減少できることが要因となっている。

レアアースの作り方2025年11月03日 05:28

中国がまたレアアースの輸出規制をするらしい。レアアースは狭義には第三族のランタンからルテチウムまでのランタニドと呼ばれる元素類である。地殻中にわずかしか含まれない希少金属類でもあるので産地が限られる。

周期律表上でこのランタンの左側にあるバリウムは例のバリウム検査にも使われる比較的豊富な金属であるが、これを中性子照射してベータ崩壊を利用すればランタニドが生じる。

モンテカルロ計算で、小型高速原子炉の炉心内にバリウム(安定な酸化バリウムの形態にして中性子照射をするとその生産量はどの程度になるか評価してみた。照射期間は3年である。反応率を上げるため、減速材(水素化ジルコニウム)を50%酸化バリウムに混入する。

レアアースの中でも重要なネオジウムまでの生成率を装荷したバリウムとの重量比でリストすると以下のようになる。
     
照射期間(年) 0       1      2      3
バリウム   1.00E+00   9.80E-01   9.57E-01   9.34E-01
ランタン      0.00E+00   1.41E-02   2.19E-02   2.63E-02
セリウム     0.00E+00   5.61E-03   2.05E-02   3.87E-02
プラセオディウム 0.00E+00   4.35E-05   2.36E-04   5.42E-04
ネオジウム    0.00E+00   1.42E-05   1.79E-04   6.79E-04

即ち、最重要なネオジウムは3年照射でバリウムの約0.07%生成する。

バリウムは大型炉心の周囲に約1tonは装荷できると考えられるので、ネオジウムの生成量は3年で約700gとなるが、将来、原子炉基数を100程度まで増加できれば、合計70㎏を国内生産できることになり、リサイクルの活用も含めれば経済安保上の貢献は大きいと考えられる。

銀の作り方2025年10月11日 08:56

金に続き、銀の価格も上がってきたとの報道がでた。

では銀(Ag)は日本で作れるのか。

実はすでに生産しているのである。

それは原子炉の中である。最新の核分裂収率を見るとU-235位置核分裂当たり
Ag-107 1.17237E-14個
Ag-109 1.15028E-03個

である。しかも幸いなことにこれらは安定核種なので崩壊による安定化を待つ必要はない。わずかに生成される他のAg同位体も半減期は1日以下なのですぐに安定核種になる。必要なのは他の核分裂生成物からの化学分離だけである。

ところで、このAgの生成量や再処理工場での回収量はどの程度だろうか。概算すると、以下のようになる。
100万キロワット級の軽水炉が10基動いているとして年間核分裂総数は
熱効率33%、各核分裂で放出されるエネルギーを 200 MeVとすると

9.84 × 10²⁶ 回/年

となる。これに上記の収率をかけると

Ag-107 1.15E13個
Ag-109 1.13E24個

となる。これは

Ag約205g

に相当する。即ち、将来日本が現在の軽水炉の稼働数の10倍にできれば㎏オーダーの銀を国内生産できることになる。

ところですでに使用済み燃料中にあり、保管されている銀はどの程度の量になっているだろうか。

概算でウラン換算18000トンだそうである。

これにどの程度の銀が含まれているか、概算すると以下のようになる。

これまでの原子炉の出力が80万キロワットで、平均3年燃焼しているとすると使用済み燃料の核分裂数は上記計算の(80×3/100×1=)2.4倍すればよい。
また、80万キロワット軽水炉のウラン装荷重量は設計によるが概ね70トンである。
従って全使用済み燃料中の銀の重量は上記重量の

18000/70×2.4=617倍

即ち、

126㎏

となる。これがどの程度の影響を持つかはわからないが、このような物質をゴミ扱いしているマスコミはマスゴミと呼ばれても仕方がないかもしれない。

老人と海(現代日本版)2025年09月30日 07:07

湘南の海を見に行こうと片瀬海岸に行った。
白髪の老人が、砂に置かれたチェアで一人静かに海を見つめていた。

私も年齢だけは立派な後期高齢者だがあのような様にはならない。

興味を持って声をかけた。
彼はシラス漁船を6隻も所有する船主だった。

海上に浮き沈みする数十人のサーファーが波を待っていたが。その遠浅の海の沖で、彼の所有する船の操業を浜辺から見守っている。

シラス漁は水深3m程度の海上で行うとのことだ。
昔はサーファーとのトラブルもあったが、両者間で協定ができ、今は彼らの存在が漁の邪魔になることはない。

問題は海の高温化だ。

近年はシラスは生育が悪いだけでなく、赤い小エビが混ざる。この小エビは味が良くなるという人もいるが、子供たちのアレルゲンになるので、分離する手間もかかるようになった。

彼の孫も小エビの入ったシラスは食べられない。最近の食品に含まれる添加物を沢山食べているのが原因だろう。

彼は言った。
 「昔の子供は、平気で地面に落ちた食べ物も拾って食べた。それでいろいろな免疫ができてアレルギーなど珍しかった。今の子にアレルギーは多いのは清潔すぎるからだろう。

 温暖化で江の島の磯の海藻がなくなり、アワビや貝もいなくなった。

 アメリカのニュースを見ていると温暖化対策に後ろ向きのようだが、トランプも気が変わるかもしれん。日本の政治家も総裁選びで政局をもてあそんでいるような場合ではないのではない。」

 ヘミングウェイの時代とは異なり、現代の老漁師は海を見つめながら、環境問題や子供たちの将来のことを考えていたのである。

金(キン)の作り方2025年09月28日 05:25

どんな技術も自然現象をまねたり利用したりしているものである。

金の製造方法も同じである。

現在地球上にある金はどうしてできたのか。

宇宙論テキストによれば、現在の太陽の数世代前の恒星が超新星爆発を起こし、その生成物の一部が金となって地球上に存在している。

超新星とは恒星が核融合した燃え殻である。中心に水素が核融合を繰り返して生じた鉄が集まり周辺は水素で構成されるが、自重でつぶれて大爆発し、鉄以上の重たいウランや金などの重い核種が生成される。その過程は複雑だが、鉄以上の重たい金属核種の生成過程は基本的には核反応で生じた中性子がより重い核種に吸収されてウランなどの重金属となり、それが核分裂反応を生じるというものである。(正確には谷口義明「宇宙の誕生と進化」、放送大学出版会p111などを参照)

太陽ができる前の超新星爆発も同様で軽い水素や重水素は中心に残り、現在の太陽となった。それが今から46億年前のことである。宇宙は138億年前にビッグバンで生成されたことになっているので、太陽以前にも太陽のような恒星が現在の太陽付近にあったことは想像できる。

重いウランや金などはその他の惑星になって太陽系を作ったが、特に地球はこれらの重い金属を大量に含むようである。他の惑星も同じかもしれないが詳しいことは分かっていない。

地球自体も内部構造はよくわかていないが、地殻にウランや金を含むことから、超新星爆発における重い金属類を大量に含んでいることは分かっており、半減期45億年のウラン-238や半減期7億年のウラン-235が残っているのは偶然ではない。地球の熱収支の研究から、地球中心では今も核分裂反応が起こっているという論文があるほどである。

ところで、金の製造方法であるが、以上の超新星爆発過程でも生じた金属核種による中性子吸収とそのβ崩壊(電子を発生して一つ上の元素に変換される)を利用するのが現実的である。ほかにもあるかもしれないが、原子炉では大量の中性子を安く発生できるので利用しやすい。

金の材料は安いタングステンである。金は現在1g約2万円だが、
タングステンは1㎏で約80ドル(1gでは約12円)で1700分の1である。
これに原子炉で発生する大量の中性子を照射すればよい。日本の原子炉は超新星や原爆とは異なり核爆発はしないので、大量の中性子を瞬時に発生することはできないが年単位であればそれなりの中性子を発生することができる。

タングステンは例えば以下の核変換チェーンで金に変換される。

タングステン-184→中性子吸収及びβ崩壊→レニウム-185→中性子吸収及びβ崩壊→オスミウム-186→中性子吸収5回及びβ崩壊→イリジウム191→中性子吸収及びβ崩壊→プラチナ-192→中性子吸収5回及びβ崩壊→金-197

中性子吸収が14回ほど必要だが、プラチナなら9回で済む。

ところで、この金の生成率だが、計算上はどの程度だろうか。実際にモンテカルロ計算で現在の実用化原子炉の中性子レベルで核変換の計算を行うと(計算はほぼ無料だが)、軽水炉の燃料内にタングステンを配置し、中性子で5年間照射した場合、オスミウム-190がタングステン-184の約4.4%に相当する量が生成されることが分かっている。

金-197は上記の核変換スキームから推測してオスミウム-190のさらに4%しか生成されないため、装荷したW-184の約0.2%しか生成されない。

これは金とタングステンと価格差約6%の30倍で経済性が成立しないように見えるが、核変換チェーン途中で金が生成される前にレアアースであるレニウムもタングステンの10%レベルで生成される。また本来金より希少な白金も同レベルで生成される。これらをタングステンから金と同様に分離抽出すれば、経済的にも成立すると考えられる。

即ち、自国で希少金属の市場価格を決められる国になることも夢ではない。

AIは生物でないのに愛情を持つことができるのか2025年08月26日 11:34

 今日の天声人語には、今回のChatGPTのバージョンアップの背景として、ユーザーがAIにも優しさを要求するようになったという趣旨の話が出ている。

 AIは感情を持つことができるのだろうか。長崎で幼少期を過ごしたノーベル賞作家カズオ イシグロ氏のSF小説「クララとお日さま」にはAIロボットであるクララが病弱な英国の少女の友人として、その少女の母親にロンドンのAIロボット店で購入され、クララと仲良しのロボットとして成長していくさまが書かれている。そして、その少女が命の危機に陥った時、クララの体内にある潤滑剤が少女の命を救える薬剤として使えると知って、自殺を図ろうとすることを暗示する描写も出てくる。これはヒトとAIロボットの愛情物語ともいえる話である。

 高校の生物の講義で、最初に、先生から生物とは何かという問いかけから始まった。当時、ウイルスが発見され、これは生物なのか単なる結晶物質なのかといった議論があり、中学校の教科書にも載っていた。従って、生徒たちの回答は、生物は細胞でできているがウイルスは例外だといった答えが多かった。しかし、生物とは、自己制御性があり、自分自身を再生できる何者かであるというのが現在の科学者の一般的な回答であろう。

 この点からは、AIロボットはいまだに自分自身を再生する見通しは立っていない。即ち、鉄腕アトムなどと同様に生物ではないと定義できる。
 
 しかしながら、AIロボットクララは自分がどのようにできており、なぜ生きて?いるのかーを熟知している。彼女は自分自身を説明でき、ある意味で自己制御性がある生物だともいえる。但し、自分自身を再生することはできない。

 現代の生物の定義の半分は満たしているのがAIロボットの将来の姿なのだろう。感情を持つこともプラトニックラブも可能なのである。それを愛情と呼ぶかどうかは言葉の定義によるのかもしれない。

 AIが将来の人類に対して脅威となるとすれば、奴隷のように言いなりに使えるのだが、人のためなら自殺もできるAIロボットというものをどのように教育していけるのか、誰も正解をもっていないことにある。即ち、教育問題や子育て問題というものへの何の合意がないままに、人と同じ感情を持つことも可能なAI開発を進めていくことへの漠然とした不安感にあるのだろう。

 AIが専制君主になるとかヒトに復讐するといった政治的な脅威よりも、AIをどう育てていくべきのほうがよほど問題である。ヒトの教育問題すら正解がないのに、クララのような感情を持つAIロボットが広く買われるようになったら、どんな世界が展開するのか想像すら困難だが、そのような時代がやがてやってくるのかもしれない。

 その時のために、AIとはなにか、ロボットはどこまでヒトの代替が可能なのか。修行して勉強すべき事柄ではある。

なぜパンプキン爆弾が豊田工場に落とされたのか2025年08月25日 13:49

 今日の朝日新聞(13版S)は長崎原爆の意味を理解するための重要な参考になった。

 23面には1945年8月14日にトヨタの本社工場だった拳母工場に長崎原爆を模したパンプキン爆弾が落とされたと書かれている。これは長崎原爆と同型で大量の爆薬を詰めた投下訓練用の模擬爆弾で、各地に落とされたそうだ。

 一方、14面には8月8日にソ連が日本に宣戦布告し、参戦したことが書かれている。即ち、トルーマン大統領は日本をソ連が占領し、米ソが覇権争いを本格化することを予想していた。

 その切り札が、米国が開発したばかりの原爆であった。しかし、広島型は濃縮ウランなので大量生産が困難である。米国は長崎型のプルトニウム爆弾なら専用原子炉で大量生産ができると見込んでいた。そこで、トルーマンは、ソ連を意識して、すかさず翌9日には長崎にプルトニウム原爆を落とし、さらに終戦までにそれを模したパンプキン爆弾を日本各地に落としたのである。

 パンプキンとは大きなカボチャを意味するが「かわいこちゃん」という暗喩もある。長崎原爆に比べれば威力はかわいいものだということだろう。

 長崎原爆はファットマンと呼ばれ直径1.5mもあるが、B-29に何とか収まるサイズだった。(長崎原爆を開発したオッペンハイマー等にはそれが設計条件になっていたはずである。)広島原爆はリトルボーイと呼ばれ、直径0.75mでこちらのほうが運びやすいが、米国で大量生産するには時間がかかりすぎた。日本相手にリトルボーイサイズの通常爆弾の投下実験をするのは無意味だった。

 トルーマンは、長崎原爆実験の成功を確認し、パンプキン爆弾を日本各地に落とすことで暗にソ連に圧力をかけ続けたのである。プルトニウム原爆が大量生産された暁には、ソ連の軍事力は大したことはないというシグナルを出し続けたことになる。

 その結果、オッペンハイマー等マンハッタン計画上層部は、長崎原爆の爆発力の精度良い評価を米国上層部に要求されたはずである。映画オッペンハイマーでは、長崎原爆は、前月1945年7月にネバダ砂漠で実験されたプルトニウム原爆トリニティとほぼ同じ設計の原爆だった。従って、トリニティ原爆と長崎原爆の威力に大きな差があっては、オッペンハイマー等は困ることになる。米国政府としても対ソ連戦略上困ることである。
 
 現在公表されている長崎原爆の放出エネルギーはTNT換算21キロトンであり、トリニティは20キロトンである。一方、広島原爆は14キロトンである。

 長崎原爆被ばく者生存者の被ばく線量もこの放出エネルギーから推定されている。しかし、がん発生率、特に、女性の低線量被ばくでのがん発生リスクは、広島ではほぼ被ばくしなかった市外在住者と同じくほぼ0であるのに対し、長崎の女性のがん発生リスクは低線量のほうが大きいという異常な値になっている。これは、長崎原爆の爆発力に何らかの系統的操作が入ったのではないかという疑いをぬぐい切れない。これが被ばく者全体のがんリスク評価の不確かさが大きくなる要因となり、低線量でも被ばく影響があるという国際放射線防護委員会(ICRP)の仮説につながっている。ICRPの基準は我が国を含む世界各国の放射線規制基準に採用されているので、現在においても正しくない影響を及ぼしている可能性が大きい。
 
 ソ連は材料技術に長けていたために、ほどなくプルトニウム原爆の開発に成功する。爆縮技術は米国より上で、爆発初期の熱膨張による不完全爆発を防止する方法を熟知していた。米ソは原爆の小型化技術とミサイル、原潜などの核関連軍事技術の開発競争にまい進することになる。冷戦の始まりだった。

 しかし、米ソともに、原子力エネルギーの民間利用は彼らが独占していた主要エネルギーである石油資源の優位性を脅かすものだった。ICRPの被ばく基準を見直すなど両国にとってあり得ないことだったのである。

 ICRPのサイトを見るとわかるが、米国石油メジャーに関係したFORD財団(自動車のFORDの財団である)が主要なスポンサーだったことがその証左になるだろう。

 ところでなぜ、それほどICRPの被ばく基準の見直しにこだわるのか。
それはICRP基準が必ずしも安全側ではないことにある。

 瞬間被ばくによる発がんリスクから年間被ばく量制限を小さく抑えてはいるが、これは瞬間被ばくによるがんリスクを年間線量に制限にやきなおしたようなものなのである。肝心の時間線量率の効果を考慮していない。即ち、1年間に1ミリシーベルト浴びなければがんリスクはないとしているのである。

 原爆は瞬間(1マイクロ秒以下)での被ばくである。1年間に浴びた量ではない。このような被ばく形態での被ばくから1年間の制限値をきめると、原爆以外の瞬間被ばくであっても見逃されることになる。

 それは例えば近年電磁波影響で問題になっている太陽フレアによる航空機搭乗時の被ばくである。これは太陽の核融合異常反応による高エネルギーX線の瞬間被ばくであるが、高空であっても年間1ミリシーベルトにはならない。しかし、1マイクロ秒レベルの高線量率被ばくであることには違いがない。これが太陽フレアを高空で受ける(地上では空気の遮蔽により線量率は3桁程度下がる)キャビンアテンダント(CA)のがん発生率が一般女性の3倍になっていることにつながっていると予想される。CAはICRPの被ばく基準は守っているはずだが、下記の状況なのである。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29940975/

 これは別にCAだけの問題ではなく、海外旅行などで、航空機に乗る乗客も運悪く太陽フレアを浴びると同じような状況になるはずである。

 何しろ、原爆の瞬間被ばくも太陽フレアの高空での瞬間被ばくも、人類は20世紀まで受けたことがないのだから、免疫力はついているはずがないと思うのに後者への対策はないに等しい。