迷惑をかける山の歩き方2025年01月13日 04:56

 昨日、日帰りでグループハイキングをしてきた。天気にも恵まれ、一日楽しく過ごせた。

 その主要因は、コースが星二つで楽なこともあるが、いつもに比べ、全く体力的に楽で、疲れなかったことである。

 それは、皆の最後についてマイペースで歩いたので、特に筋肉疲労が残らなかったことにある。他の要因としては、チェーンスパイクと称する爪の短いアイゼンを登山靴の底に装着したので、滑りやすい斜面での余計な踏ん張りが必要なく、脚に負担がかからなかったためでもある。

 この結果、疲労も残らず、筋肉痛にもならなかった。これはこのグループの山行では初めてのことである。

 ただ、その反動として、いくつかの迷惑をかけることとなった。

 ひとつは、先行する他のメンバーを何度か待たせたことである。昔のグループ登山の本には、最も遅いメンバーに合わせるようにと書いてあった気がするが、このグループはリーダーが先頭を歩くことになっているため、大体が私より早い。

 もう一つはチェーンスパイクで登山道を痛める可能性である。これは、木の根を避けて歩くことで大きな問題にはならないと思うが、スパイクタイヤと同じで、岩場などでは傷を残すことになる。しかし、これはアイゼンと同じ問題を孕んでいる。

ChatGPTによる関東周辺の岩/石との硬度比較では、

岩石/鉱物名  分類    モース硬度    鉄との比較
滑石    変成岩の鉱物    1    鉄よりはるかに柔らかい
方解石   堆積岩の主成分   3    鉄(4-5モース)より柔らかい
軽石    火山岩       3-6   含有鉱物次第で硬度が異なる
火打ち石  堆積岩(チャート) 7    鉄より硬く、鉄を引っ掻ける
大理石   変成岩       3-4   鉄より柔らかい
燐灰石   堆積岩/火成岩    5    鉄より硬い
角閃石   変成岩/火成岩    5-6   鉄と同程度またはやや硬い
長石    火成岩の主成分   6    鉄より硬く、鉄を引っ掻ける
緑柱石   火成岩/変成岩   7.5-8    鉄より非常に硬い
黄玉    火成岩の鉱物    8    鉄より遥かに硬い

従って、同行者からは石が鉄より硬いので傷つけることはないと聞いたが、必ずしもそうではないようだ。ざっと半々である。気を付けたい。

 一方、他の人を待たせることについても、敢えてやりたくはないが、元々山行は個人の趣味であり、自分が楽しむものとして行う行為で、ある程度は迷惑をかけるのは仕方がないともいえる。迷惑がかかるのはお互い様なのである。他の一般的スポーツと異なり、歩く速度などのルールが明確に決まっているわけではなく、勝ち負けもないので(事故ったら負けだが)、無理に他人に合わせる必要もない。そこが自然相手の趣味の良いところともいえる。

 終バスに遅れることなく、安全性に問題がない限り、マイペースで怪我しないよう楽しむことにしたい。

落下時の受動安全装置2024年07月29日 15:43

 知人に岩場の練習ゲレンデのオーバーハングでザイル操作を誤り、約20m落下したが、命は助かったものがいる。1年ほど入院していたが、脚が不自由になっただけで何とか普通の生活をしている。

 助かった主要因は、ゲレンデだったので万一のために床面が硬質ゴムでできていたことだという。

 仮にその床面に穴が開いていて地球の中心を通りブラジルまで貫通していたらどうなるだろうか。地球中心までは重力加速度Gで速度を上げていき、中心からブラジルまでは同じ重力加速度を逆向きに受けながら地表に達し、平然とブラジルの地に立つはずである。(惑星間引力や摩擦など重力以外の力を無視した場合。)

 上記では地球を貫通した場合だが、普通の地表の落下で問題になるのは、重力加速度により下向きの速度を持つ物体を短距離、短時間で速度0にするために、何らかの上向きの加速度が必要なためである。
加速度とは単位重量当たりに掛かる力であり、これが人体に多大な荷重をかける。

 では、仮に岩場で20m落下し、下が岩でも助かる方法はないだろうか。

 20m落下すれば、重力加速度により、衝突速度は約71㎞/hとなる。重力加速度1Gは地球上では一定なので約10m落下ごとに1G分が追加される。即ち、この速度の物体を20m落下した後に、ブラジルの例のように更に20mの距離の間、上向きに1Gの加速度を掛けて減速できるパラシュートのような何らかの装置があれば過大な力を受けることなくゆっくり速度が落ち、全長40m落下した後には速度がゼロになる。後半20mで受ける必要な加速度は方向は逆だが1Gであり、いつもと同じ力を受けるだけである。

 従って、落下時の問題は、人体が許容できるような上向きの加速度を短距離で掛けるような装置が設計可能かということになる。

 人体の耐衝撃荷重だが、訓練されたパイロットが耐えられる加速度が10G程度と言われおり、これが失神する限界加速度である。

 一方、物理的な骨折に対しては、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/28/4/28_4_189/_pdf
の図9では脊椎圧迫骨折の限界は鉛直方向荷重で1000N(約100㎏f)である。これは第一腰椎(断面積は約1㎝2)に対し、100㎏の重力荷重がかかった状態であり、通常は1㎏分の体重を支えているとすると100G相当の荷重となる。

 即ち、10G~100Gの範囲であれば多少は骨折しても何とか生き延びられる。前記の友人は20mなので硬質ゴムのたわみを1㎝(0.01m)とすると0.01mの距離で20mに相当する加速度分2Gの速度を打ち消すための上向きの力を受けたことになる。これは上記のパラシュートの例から

20/10/0.01=200G

に相当する荷重である。脚から落ちたため、踵、腰骨、肋骨は折ったが脊髄は折らずに済んだ。落下時に意識を失ったかどうかは不明である。

 上向きの力が100G以下の荷重になるよう落下時に体幹部が受ける最大加速度を低減できるショックアブソーバーのような身を包む装置が製造できるかどうかがポイントになる。

現在、BCA社より市販されている雪崩れ対策用ザックは、紐を引っ張ることで瞬間膨張するエアバッグにより、身体を雪崩の上面に浮上させようとする構造となっている。
https://item.rakuten.co.jp/aimpoint/bca22fle2-35/

このエアバッグ形状を変形し、身体の前後に二つの平板型ゴム風船が配置できると仮定する。また、膨張時のバッグの厚さは11cm、衝撃吸収後の厚みは1㎝とする。即ち、衝撃荷重をこの10㎝の変化で受けとめられる構造である。

これで20m落下した時に地面から受ける加速度は、このエアバッグがうまく一様にしぼんでくれれば

200G×0.01/(0.11-0.1)=20Gとなるので見込みは有りそうである。

 このようなエアバッグが落下時に一様に瞬時(0.1/(71000/3600)=0.005秒)に萎んでくれるか、また、落下途中でうまく膨張させられるか、20m落下で止まるという仮定が妥当か、ボンベ重量がどこまで軽減できるかなどの開発課題は多い。

 しかし、これが開発できれば、岩場での死傷事故は減少できるだろう。また、様々な高所作業での落下時の受動安全対策にも需要が見込めるはずである。

 ホンダが歩行者事故の受動安全対策にバンパー部設置エアバッグを開発したそうだが、この応用として落下時の受動安全装置の開発を進めることもできるはずだ。ヒト型ロボットも開発したのだからデータは蓄積しているだろう。

K2遭難は滑落ではないのでは?2024年07月29日 09:47

 K2西壁で著名登山家の平出和也氏と中島健郎氏が遭難したとの報道がなされている。お二人の無事を祈るばかりである。

 一部マスコミでは、滑落と℃報道されているが、遭難原因は滑落ではないのではないか。(推定で書くとChatGPTから根拠不十分と叱らせそうだが)

 しかし、お二人の技術レベルを考えると滑落とは思えない。滑落というのは、滑って落ちることである。足を滑らせて、或いは手が滑って落ちるなどということは考えられない。

 考えられるのは、岩板の崩壊か、ハーケン、アイスハーケンの意図せぬ抜けによるビレー(保持)の失敗である。

 そうだとすると、K2西壁も地球温暖化の影響を強く受けていることになる。西日を浴びた岩壁が7000mの本来氷の世界であるはずの氷を溶かし、再度凍ることを繰り返して近年急速に脆くなり、剥がれたり、ハーケン、ナットが効ききにくくなったりしているのではないか。

 以前から西壁は脆く、危険な壁とは言われていたようだが、彼らはそれも考慮して準備していたはずである。

 しかし、温暖化の速度は予想以上であり、天気予報で最近よく聞くような、今まで経験したことのない現象がヒマラヤでも生じているのだろう。

 ともかくもお二人の無事な生還を祈り、信じている。
 イギリスのドキュメンタリーで、Touching the voidというやはり二人だけでアンデスに出かけ、脆い稜線で落下するが1週間後に激痛に耐えながら歩いて生還するという冒険記録があった。あのドキュメンタリーのように傷ついていても生還してもらいたい。

富士山弾丸登山の防ぎ方2024年07月19日 07:38

 富士山吉田口にゲートができ、弾丸登山を防ごうと地元は頑張っているが、トラブルは増える一方だろう。

 弾丸登山をやめさせる大きな理由は、夜間登山中の事故防止だろう。

 そのため、途中の山小屋の宿泊予約がない登山者は原則、山梨県側からの夜間登山日帰りができない。

 これを防ぐ簡単な方法は、登山口の5合目に大人数を収容できる宿泊施設を作ることである。朝早く登れば、5合目から日帰り登山は十分可能である。すでに5合目には3階建てのレストハウスがある。また、佐藤小屋もある。これらを拡充して、大規模宿泊施設を造ればよい。

 富士山でご来光を迎えたいのであれば、朝早く出発すればよい。八合目の小屋に泊っても本当の山頂(剣ヶ峰)でご来光を見ることは難しい。

 天気次第だが、5合目の小屋を早朝出れば八合目付近でご来光を迎えられる。

 昔、登山ブームになる前だが、米国人とともに5合目の佐藤小屋に一泊し朝出発し、剣ヶ峰まで登り、その日の内に東京のホテルまで送ったことがある。
 外国人、特に米国人にとっては富士山登山の実績はある種のステータスのように感じられた。(太平洋戦争末期に、原爆を広島でなく、富士山に落とせと言った主張まであったのだから、日本の象徴ではある。)

 現在の問題は途中の山小屋の収容人数が少なすぎることだろう。その結果宿泊予約できずに弾丸登山になってしまう。
 
 5合目の宿泊能力を増強することでこれらの問題は解決可能だ。

 7合目以上の小屋の狭さや食事の問題によるインバウンドからの不評もこれで解決できよう。

危険な山行(参考)2024年07月16日 20:17

ハイキングとは実は高みに登ることで、日本語のイメージとは異なる。カテゴリの都合でここに今までの危険な山での瞬間を反省を込めて纏めた。

いずれも、事故への伏線はあったが、その時点では予測出来ず、一瞬の判断ミスがあれば死亡事故につながっただろう。

主観的にヤバかった順に記す。

⑴オツルミズ沢の奇跡
これは、普通なら二人死亡の記事が出ていた奇跡である。この沢は、越後駒ケ岳の南東部にあり、数十メートルの滝が連続する。

前日、徹夜で仕事をして寝不足だった私は、先輩のリードで、何とか後を追っていたが、ある壁面では、力尽きてザイルにぶら下げってしまうような疲労困憊状
態だった。

その結果、明かるいうちに山頂に到達できず、約50メートルの滝の上でビバークすることになった。しかし、滝の落ち口は狭く、座って寝る以外ないほど狭
かった。ハーケンとザイルで、ビレーしたとしても不安感はある。そこで、薄暗い中、先輩は左側の壁をひとり登って行った。横になって眠れる平地を探すため
である。

その瞬間、落ち口に立っていた私は胸に強い衝撃を受けた。先輩が落ちてきたのである。このままでは二人とも滝の下だ。一瞬、右側に滝の落ち口の水たまりが
あること気づき、先輩の体を右に打っちゃった。

その時間は、恐らく0.1秒以下だろう。先輩は、秋の寒さの中で水に落ち濡れ鼠になったが、ともかく、二人とも死なずに済んだ。先輩が落ちてきたのは、
アップザイレンのために打ったハーケンが抜けたためだった

ただ、当時、私は中性子散乱の勉強をしていたので、無意識のうちにまともに受けず、先輩を斜めに打っちゃることで力を分散させたのかもしれない。ビリヤー
ドの斜め打ちの原理である。

(2)井戸沢の彷徨

蔵王刈田岳直下に流れる井戸沢の源頭はカール状で、雪質もよく、山スキーの練習には、最適である。ある年の初春、友人を誘ってふたりで清渓小屋をベースに
山スキーと洒落こんでみた。小屋から井戸沢のカールまでは10分程度である。軽装でスキーを楽しんでいた。
昼になったので、ふたりで雪面に座って食べたのだが、やや風がある。ツエルトをかぶって食べたほうがいいだろう。とそこまではよかった。

10分ほど食べて、ツエルトを両手で上げた時に愕然とした。ガスで20メートル先が見えない。しかも、小屋から歩いてきたスキーのシュプールが風で消えて
いた。

GPSなどない時代である。大体の方向は、わかるのだが、ほとんどが真っ白い世界である。小屋への正確な方向が分からなければ、この軽装で一晩氷点下20
度にもなるなかで過ごすことになる。二人で必死になってシュプールを探した。しかし、一時間探しても見つからない。次第に暗くなってきた。刈田岳山頂に避
難室があるのはわかっていたが、この軽装でどうなるのだろうか。しかも、一時間は見ないとつかないだろう。どうするどうするーと思った瞬間、雪面に微かな
二本の溝が見えたのである。(今考えると、日が傾き薄暗がりになったから溝の影がわかったのかもしれない。)
二人は、その溝を追って、何とか清渓小屋に戻ったのである。

(3)松木沢での落下

松木沢は、足尾銅山の西方に位置する。当時、鉱毒で樹木がかれたおかげで岩面が露出し、良いロッククライミングのゲレンデになっていた。私は三人パーティ
の最後だった。大きな岩が目の前にあり、ザイルに繋がれていることもあって、両手で無理やり体を持ち上げた。

その瞬間、手をかけていた大岩が20メートルも落下し、私はザイルにぶら下がったのである。私がトップかセカンドなら、確実に1人は殺していただろう。鉱
毒は岩をも蝕んでいくいたのであることが説明できる。

以上、若気の至りでした。

急斜面、ガレ場での簡単で邪魔にならないストックの扱い方2024年05月22日 16:30

 ストックは便利だが、ガレ場や急な下り斜面では手で直接木の根や岩をホールドしたくなることも多い。その際に、邪魔になるのもこの長いストックである。

 いちいちザックに仕舞い込んだりしていては、時間がいくらあっても足りない。しかし、長く硬いストックを手首にぶら下げたままホールドを掴んでもストックがどこかに当たって邪魔になり、或いはひっかけて危険でもある。

 そこで、、簡単にストックが邪魔にならない方法を考えた。必要になるのは、

(1)チェストベルト付きのザック(左右の肩紐の胸の部分をつなげるようにしてあるザック)
(2)ストック下部が通せる程度の中型のカラビナ(山やにはおいてある。)

だけである。(1)のベルトの代わりにカラビナが下に落ちないような手作り紐をつけても良い。

具体的な方法は、

(1)最近のストックは、簡単にストラップの長さが調整できるので、できるだけ長めにして置き、手首が自由に動くようにする。
(2)肩紐の下部に落ちて行かないように、チェストベルトの上部にカラビナを取り付ける。
(3)ガレ場などに近づいたら、ストックを空に向けて回転し、このカラビナにストック下部を通す。

これだけである。
ストックは、この構成により、逆さにして肩で担いだような配置になり、しかもカラビナの内部を通っているので上下にも自由に動く。
このため、手によるホールドの上下位置の相対変化がストックに邪魔される可能性はほぼなくなる。

このストックを回転させて胸付近にあるカラビナに通すという動作は数秒でできるだろう。ただ、周囲に人がいないことを確認してから行わないとストックをぶつける心配はあるので、注意する必要はある。

シングルならば利き手側のストックをこのような構造にしておけばよい。
ダブルストックの場合も利き手側をこのようにして、反対側はホールドには使わないという癖をつけておけば全体として時間節約になる。