K2遭難は滑落ではないのでは?2024年07月29日 09:47

 K2西壁で著名登山家の平出和也氏と中島健郎氏が遭難したとの報道がなされている。お二人の無事を祈るばかりである。

 一部マスコミでは、滑落と℃報道されているが、遭難原因は滑落ではないのではないか。(推定で書くとChatGPTから根拠不十分と叱らせそうだが)

 しかし、お二人の技術レベルを考えると滑落とは思えない。滑落というのは、滑って落ちることである。足を滑らせて、或いは手が滑って落ちるなどということは考えられない。

 考えられるのは、岩板の崩壊か、ハーケン、アイスハーケンの意図せぬ抜けによるビレー(保持)の失敗である。

 そうだとすると、K2西壁も地球温暖化の影響を強く受けていることになる。西日を浴びた岩壁が7000mの本来氷の世界であるはずの氷を溶かし、再度凍ることを繰り返して近年急速に脆くなり、剥がれたり、ハーケン、ナットが効ききにくくなったりしているのではないか。

 以前から西壁は脆く、危険な壁とは言われていたようだが、彼らはそれも考慮して準備していたはずである。

 しかし、温暖化の速度は予想以上であり、天気予報で最近よく聞くような、今まで経験したことのない現象がヒマラヤでも生じているのだろう。

 ともかくもお二人の無事な生還を祈り、信じている。
 イギリスのドキュメンタリーで、Touching the voidというやはり二人だけでアンデスに出かけ、脆い稜線で落下するが1週間後に激痛に耐えながら歩いて生還するという冒険記録があった。あのドキュメンタリーのように傷ついていても生還してもらいたい。

落下時の受動安全装置2024年07月29日 15:43

 知人に岩場の練習ゲレンデのオーバーハングでザイル操作を誤り、約20m落下したが、命は助かったものがいる。1年ほど入院していたが、脚が不自由になっただけで何とか普通の生活をしている。

 助かった主要因は、ゲレンデだったので万一のために床面が硬質ゴムでできていたことだという。

 仮にその床面に穴が開いていて地球の中心を通りブラジルまで貫通していたらどうなるだろうか。地球中心までは重力加速度Gで速度を上げていき、中心からブラジルまでは同じ重力加速度を逆向きに受けながら地表に達し、平然とブラジルの地に立つはずである。(惑星間引力や摩擦など重力以外の力を無視した場合。)

 上記では地球を貫通した場合だが、普通の地表の落下で問題になるのは、重力加速度により下向きの速度を持つ物体を短距離、短時間で速度0にするために、何らかの上向きの加速度が必要なためである。
加速度とは単位重量当たりに掛かる力であり、これが人体に多大な荷重をかける。

 では、仮に岩場で20m落下し、下が岩でも助かる方法はないだろうか。

 20m落下すれば、重力加速度により、衝突速度は約71㎞/hとなる。重力加速度1Gは地球上では一定なので約10m落下ごとに1G分が追加される。即ち、この速度の物体を20m落下した後に、ブラジルの例のように更に20mの距離の間、上向きに1Gの加速度を掛けて減速できるパラシュートのような何らかの装置があれば過大な力を受けることなくゆっくり速度が落ち、全長40m落下した後には速度がゼロになる。後半20mで受ける必要な加速度は方向は逆だが1Gであり、いつもと同じ力を受けるだけである。

 従って、落下時の問題は、人体が許容できるような上向きの加速度を短距離で掛けるような装置が設計可能かということになる。

 人体の耐衝撃荷重だが、訓練されたパイロットが耐えられる加速度が10G程度と言われおり、これが失神する限界加速度である。

 一方、物理的な骨折に対しては、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/28/4/28_4_189/_pdf
の図9では脊椎圧迫骨折の限界は鉛直方向荷重で1000N(約100㎏f)である。これは第一腰椎(断面積は約1㎝2)に対し、100㎏の重力荷重がかかった状態であり、通常は1㎏分の体重を支えているとすると100G相当の荷重となる。

 即ち、10G~100Gの範囲であれば多少は骨折しても何とか生き延びられる。前記の友人は20mなので硬質ゴムのたわみを1㎝(0.01m)とすると0.01mの距離で20mに相当する加速度分2Gの速度を打ち消すための上向きの力を受けたことになる。これは上記のパラシュートの例から

20/10/0.01=200G

に相当する荷重である。脚から落ちたため、踵、腰骨、肋骨は折ったが脊髄は折らずに済んだ。落下時に意識を失ったかどうかは不明である。

 上向きの力が100G以下の荷重になるよう落下時に体幹部が受ける最大加速度を低減できるショックアブソーバーのような身を包む装置が製造できるかどうかがポイントになる。

現在、BCA社より市販されている雪崩れ対策用ザックは、紐を引っ張ることで瞬間膨張するエアバッグにより、身体を雪崩の上面に浮上させようとする構造となっている。
https://item.rakuten.co.jp/aimpoint/bca22fle2-35/

このエアバッグ形状を変形し、身体の前後に二つの平板型ゴム風船が配置できると仮定する。また、膨張時のバッグの厚さは11cm、衝撃吸収後の厚みは1㎝とする。即ち、衝撃荷重をこの10㎝の変化で受けとめられる構造である。

これで20m落下した時に地面から受ける加速度は、このエアバッグがうまく一様にしぼんでくれれば

200G×0.01/(0.11-0.1)=20Gとなるので見込みは有りそうである。

 このようなエアバッグが落下時に一様に瞬時(0.1/(71000/3600)=0.005秒)に萎んでくれるか、また、落下途中でうまく膨張させられるか、20m落下で止まるという仮定が妥当か、ボンベ重量がどこまで軽減できるかなどの開発課題は多い。

 しかし、これが開発できれば、岩場での死傷事故は減少できるだろう。また、様々な高所作業での落下時の受動安全対策にも需要が見込めるはずである。

 ホンダが歩行者事故の受動安全対策にバンパー部設置エアバッグを開発したそうだが、この応用として落下時の受動安全装置の開発を進めることもできるはずだ。ヒト型ロボットも開発したのだからデータは蓄積しているだろう。