地熱発電の放射能問題検討の結果が意外な方向に2024年08月01日 05:45

 昨日、地熱発電に関するヤフコメ問題で、地熱発電の放射能問題を定量比較すべきなのは投稿者自身だと書いたが、それも無責任だと思い、日本地熱学会のサイトを調べてみた。

 その結果、地熱が太陽系生成で地球内部に蓄積され崩壊している放射性物質の崩壊エネルギーに由来していることは書かれていたが、環境影響のページには、この放射能放出問題が見当たらない。

 地熱発電を推進する立場とみられる学会でこれに触れないのは自然かもしれないが、アンフェアだとも感じらる。また、ヤフコメを投稿した者が地熱学会に所属しているとすれば、投稿を削除したのも自然な流れである。

 しかし、下記弘前大学のサイトでは、
https://irem.hirosaki-u.ac.jp/news_20151222_1
地熱発電用地下水のパイプに析出したスケール。これに放射性物質が多量に含まれる場合がある。
と記載されている。

 同時に、同サイトでは「自然起源放射性物質データベース」
https://www.nirs.qst.go.jp/db/anzendb/NORMDB/1_bussitunokensaku.php
には、石油や石炭のデータもあるという。

 このサイトから主要なものを拾ってみると、ウラン系列とトリウム系列の合計で

石炭:約100ベクレル/kg
石油、原油:約150ベクレル/kg

一方、総輸入量は2005年で
石炭: 180810754 (t)
石油、原油:210333745.3 (t)

となっている。即ち、これらがすべて燃焼されると、年間で
石炭:1.81E13ベクレル/年
石油、原油:3.15E13ベクレル/年

となる。ラドン温泉の素は約50ベクレル/kgで放射能濃度しか記載されていないが、輸入量は微々たるものだから、石炭、石油に比べ無視できるレベルである。

一方、福島事故で放出された放射能で、半減期が長く影響が大きいセシウム137は1.0E15ベクレル程度と言われているので、石炭、石油の50年分相当である。

 即ち、現在の石油、石炭に頼ったエネルギー構成では50年で福島事故相当の放射能放出となる。

 問題なのは、ウラン系列、トリウム系列ともに半減期は数億年単位であり、30年程度のセシウムよりも影響は長期間に及ぶのである。

 地熱発電の放射能問題どころか、現在主流となっている化石燃料利用の発電方式の放射能と原子力事故での放射能が同レベルだったという意外な結果になった。

 原子力発電の放射能と同時に現在の化石燃料による発電の放射能を問題にすべきだろう。


なお、上記弘前大学のフィリピン地熱発電所調査は、下記サイトに関係論文があることが分かった。

https://repo.qst.go.jp/records/78950

K.Iwaoka, et. al.,、”Natural radiation exposure in geothermal power plant in the Philippines”,Proceedings of 5th International Conference on Environmental Radioactivity (ENVIRA2019)p. 39-41(2020)

この論文の要旨の翻訳は以下のとおりである。
 近年、地熱発電所はエネルギー生成産業の1つとして世界中で稼働している。フィリピンでは,他国と比較して比較的多くの地熱発電所があるが,これらの発電所における放射線情報は少ない。本研究では、フィリピンの地熱発電所において、スケールと土壌の放射能濃度および周辺線量当量率の測定を行った。すべての作業現場における周辺線量当量率は0.038から0.051μSv/時の範囲であり、フィリピンの平均値よりも低い値であった。試料中のウラン系列,トリウム系列、カリウム-40の放射能濃度は、IAEA安全基準の関連値(カリウム-40については10Bq /g、その他の天然起源の核種については1Bq/g)よりも低かった。