地熱発電の放射能とラドン温泉の相関と被ばく基準の奇妙な関係2024年08月02日 07:21

 地熱発電は地球内部のマグマによる熱水エネルギーを利用した発電方式なので、マグマの熱源であるウランやトリウムなどの放射性物質との隔離がうまくいけば放射能とは無縁にできるはずである。しかし、その熱水と放射性物質の地球内での分離が不十分なのが、世にあるラドン温泉やラジウム温泉である。ラジウムは金属だが、ラドンはラジウムの崩壊で生成される希ガスなので特に温泉水中に含まれやすい。

 ところで放射能というものは、半減期が短ければすぐになくなる。半減期が長ければ、崩壊しにくいので検出しにくい。

 ラジウムはウラン238から始まり、鉛206という安定核種で終わる19個の核種からなるウラン崩壊系列の中で、ラジウム226という1.602年という比較的検出しやすい半減期を持つ放射性核種として存在する。ラドンはラジウムの崩壊により生成されるので、これも検出しやすい。

 また、トリウム崩壊系列では、ラジウム228という半減期5.7年の核種、ラジウム224という半減期3.6日の2つの核種があり、ラドン220は後者の崩壊で生じる。

 なぜ、こんな系列が地球にあるのかと言えば、48億年前に太陽系が生成される前、地球の材料となる宇宙塵を生成した超新星爆発が大規模な核爆発であり、そこで様々な核種が生じたが。地球はその中の重い核種を集めたため、惑星の中で地球のみが現在も地震や火山活動など活発な活動をしている。太陽や木星より遠くの惑星はは宇宙のビッグバン時に大量に生成された水素が集まったもので惑星とは形成過程がことなる。近くの惑星は地球に組成は近いが重い核種は少ない。
 
 地球はウランなどの重い核種を取り込んで生成されたが、ウラン系列の開始核種ウラン238、トリウム系列の開始核種トリウム232の半減期は各々45億年、140億年なので、今でも崩壊せずに地球に残って温泉など地熱エネルギーを供給している。
 即ち、地球の生成初期には更に多くの放射性核種が存在していたことになる。生物もそれを利用していて、ヒトのミトコンドリア内に約4000ベクレル存在するカリウム40は半減期12億年であるが、植物では太陽光の届かない地中での発芽におけるエネルギー源にもなっているらしい。

 ところで、ラドンは希ガスなので、ラジウムよりも体内に取り込みやすく、また、放射能とは言っても逆に健康に良いという説も強い。下記の山田邦子さんのサイトはラドンの健康効果を分かりやすく説明している。
https://gan-senshiniryo.jp/live_long/post_6675

 このサイトでの放射線ホルミシスとは、単純に言えば、小量の放射線は健康に良く、がんの発生も抑制する効果があるというものである。

 従って、放射能が人間環境に良いのか悪いのかはまだ議論のあるところだが、ここでは、常識に従って、日本の地熱発電で最大どの程度放射能が環境中に放出されるかを概算してみる。

 まず、地熱エネルギーだが、
https://looop-denki.com/home/denkinavi/energy/powergeneration/geothermal-power/

によれば、日本には2347万kWの地熱エネルギーがあるらしい。
これは恐らく熱エネルギだが、熱効率を火力発電所並みの40%として電気エネルギーに換算した場合でも約1000万kWであり、大型原発10基分にしかならない。現在実用化されている熱効率は20%程度で、また、現在の日本での発電容量はわずか60万kWである。

この地熱エネルギー資源をすべて利用できるとした場合、地上に放出される放射能はどの程度だろうか。地熱発電は熱水をそのままくみ上げし、蒸気のみ分離するフラッシュ型と、熱水の熱エネルギのみ熱交換器で蒸気に変換するバイナリー型があるが、後者ならば放射能は地上に出にくい。但し、バイナリー型は熱水の温度が80℃以上必要なので資源量は限られる。ここでは、フラッシュ型を想定して放射能を計算し、その1/2を実際の放出量とする。

 また、温泉中の放射能濃度としては、温泉法上
111ベクレル/ℓ以上
のラドンを含まなければならない。一方、放射能泉の割合は
https://www.murasugi.com/contents/document08-001によれば
7.7%である。即ち、全国平均の温泉のベクレル数は
8.5ベクレル/ℓ
ということになる。

 一方、全国の温泉の湧出量は
https://www.spa.or.jp/onsen_wp/wp-content/uploads/2018/06/onsen_best10_28.pdf
によれば上位10県で
1,612,624ℓ/分
である。全国ではこの2倍の湧出量であると見積もる。

 これらから、仮に全温泉流出量を地熱発電で利用できた場合、年間ラドン放射能放出量は

8.5×1612624×60×24×365×2/2=7.2E12ベクレル/年

となる。
 この値は昨日計算した石炭年間輸入量がすべて火力発電で燃焼した場合の放出放射能
1.81E13ベクレル/年
の約半分である。しかし、発電量は大型原発10基分相当しかない。
しかも温泉の入浴の機会に影響する可能性もある。

 このような発電方式をどうするかという重要な問題は、専門家が更に定量的な情報を提出し、民主的に議論できるような環境を整えたうえで公開で討論すべきだろう。




 なお、前述の小線量での放射線ホルミシスに関しては、以下のような考え方で説明ができる。
 現在の放射線被ばくに対する法律上、或いは、マスコミなど一般世論での議論は、被ばく線量の大小のみが対象になっている。

しかし、これまで統計的に有意ながん発生を生じた例は、広島・長崎の被ばく生存者だけである。この被ばくは原爆による被ばくであり、1ミリ秒以下の瞬時被ばくである。この様な瞬間的な被ばくというものは、二十世紀になって初めて生物が受けた放射線被ばく形態なので、免疫が無い。

ところが、この被ばく量とがん発生の関係から現在のICRPの年間被ばく制限値が設定されており、1ミリ秒以下という瞬時被ばくであることが無視されて、年間の被ばく線量制限に対する規制値になっている。
これは一気飲みのアルコール制限を年間摂取制限と混同しているようなものである。

即ち、時間線量率に対する制限値が現在の規制値にはないことである。(数か月あたりという制限はあるが瞬間被爆への制限はない。)このICPR基準が世界各国の法律に取り入れられている。

 このため、瞬時被ばくである太陽フレア初期のX線被ばくを受ける機会の多い米国CAでは、これも統計的に有意な乳がん発生率となっている。このような高空での宇宙線の被ばくも二十世紀になって初めて人類が経験する瞬間被ばく形態である。彼女らはICRPの年間被ばく制限は満足しているのにがん発生率は、一般人の三倍程度になっている。。

 従って、ICRPのような年間総線量のみの1次元的な規制ではなく、時間線量率と総線量の両者を含む2次元的な被ばく規制に変更すべきである。時間線量率の問題を無視しているから、一般人の年間被ばく制限はがんになる可能性のある線量を1ミリシーベルト/年としながら、
放射線がん治療では、最大70シーベルトも患部に照射している明らかなパラドックスを説明できないことになる。

 放射線がん治療は原爆のような瞬時照射ではなく、数時間を掛けて照射する。周辺の通常細胞も工夫しても同レベルで被ばくするが、がん細胞と通常細胞の感受性の差が利用できるのでがん細胞のみ死滅できる。通常細胞は瞬時被ばくでないのでがん抑制遺伝子が効果を発生する時間的余裕があり、がんにはならないのである。

 このよう時間線量率の効果を取りいれた新基準を制定するために、様々なデータを原子力関係者、医療関係者、規制当局など関係者が集まり、早急に議論すべきである。このような2次元的な規制基準であれば、実際に健康的で地球温暖化にも対応できる施策が討論できるようになるだろう。現在の基準はICRPが様々な政治的圧力を受けて一見安全側に設定したかに見える基準でしかない。

 また、現在の時間線量率被ばくの動物実験データはせいぜい数時間単位の線量率のデータであり、ミり秒単位の実験データは(広島・長崎は米国側からは実験だったかもしれないが)広島・長崎の被ばく生存者のがん発生及死亡データ以外には存在も公開もされていない。
何しろ原爆の爆発時間自体、広島の放射線関連の研究所が公開した米国側の資料では正確なデータを示していない。約1マイクロ秒となっているが、これは炉物理の理論から得られる値と三桁異なるうえ、根拠も示されていない。時間線量率が無視されているので、適当に書いたものだろう。

更に、最も重要な被ばく生存者の発がんや寿命データも最近非公開にしたそうである。別に個人が特定されるデータがあるわけでもなく、何年間も公開されてきたが、現在の基準の問題指摘の論文に用いられるのを防ごうとしているのだろう。これも個人情報保護を名目にした問題のある行為である。