オッペンハイマーと長崎原爆被ばく者データに関する疑惑 ― 2025年01月27日 11:26
映画オッペンハイマーでは、米国政府とオッペンハイマーの原爆開発の目的のずれが戦後の両者の対立になった経緯が描かれている。
その前提となるのが、広島に落とされた濃縮ウラン型原爆と長崎に落とされたプルトニウム原爆の物理、機械的相違である。
濃縮ウラン型は、臨界量未満の濃縮ウラン(ウラン235は90%以上)を円柱状にして置き、その中心に濃縮ウランの棒をピストルのように打ち込み十分な超臨界状態になったのちに、その棒の先端につけた中性子源から中性子を発生させて爆発させる。比較的簡単な構造である。
一方、オッペンハイマーが開発の主役となったプルトニウム型では、プルトニウム240という自発的に核分裂する核種が微量に含まれてしまうので、濃縮ウランのような単純構造では、超臨界状態になった瞬間にプルトニウム240からの中性子が発生すると核分裂による熱膨張で未臨界に戻ってしまう。そこで、映画にも出てきたエドワード・テラーが爆縮装置と呼ばれるプルトニウム球の周囲に配置し、ダイナマイトによる爆発力で周囲から圧力を加えることでこの熱膨張を抑制し、十分な爆発力を得る構造としたのである。
これは、原爆用濃縮ウランの製造には天然ウランの核分裂性核種ウラン235の比率0,7%を90%以上に濃縮する必要があり、複数段の濃縮装置に多大な電力と時間が必要だった一方で、プルトニウムは低燃焼度のウランとプルトニウムの化学分離の操作だけで製造できたからである。
しかし、プルトニウムの爆発には、混入するプルトニウム240がいつ中性子を発生するか、また、爆縮装置がうまくプルトニウムを圧縮してくれるかといった予測困難な問題があり、映画にもあるようにネバダの砂漠で、トリニティと呼ばれた実験を行い、核爆発力と兵士をモルモットにした実験が行われた。但し、この爆発力の見積もりは各研究所や大学機関で1桁以上の差があり、映画にもあるように兵士の配置が遠すぎて人体影響はほぼ見られなかった。
その一か月後、トリニティと同設計での長崎原爆が落とされたわけである。
米国政府としては、広島の原爆は構造が簡単なので確実に爆発することは分かっていたのだが、日本が降伏する前にこのプルトニウム型原爆を実験したかったのであろう。僅か、3日後に長崎に落とされた。
それは米ソ冷戦への備えとして落としたとしか思えない。オッペンハイマーは本来、戦争抑止のために開発したはずのプルトニウム原爆が長崎で一般市民に使われたため怒って戦後は核開発の反対論者になりスパイ容疑で裁判にかけられたという経緯が映画の後半の主題である。
なぜ、こんな歴史を今更と思うだろうが、最近、広島と長崎の被ばく者のがん発生率を分析したところ、長崎の被ばく者のデータに異常があることが分かったのである。下記は、統計ソフトRを用いて、広島と長崎の全被ばく生存者の被ばく量と固形がん発生リスクを分析した例の一部である。比較のため、400mGy以下の低線量範囲での比較結果のみ示すと以下のようになった。これは被ばく線量で比較したリスクであり本来広島と長崎で同傾向にならなければならない。
しかし、この発がんリスクの傾向には両市間で大きな相違がある。特に、低線量ほどリスクが大きいという結果になっている長崎市のデータには大きな問題点があると考えられる。
過剰相対リスク
線量範囲上限(mGy) 広島 長崎
400 0.800261919 1.074421
395 0.824506781 1.1539922
390 0.762176781 0.9001722
385 0.606536237 0.8074187
380 0.449953241 0.7136868
375 0.46056437 1.4629095
370 0.402776568 1.3920268
365 0.343500724 1.3379963
360 0.351151039 1.4072673
355 0.337969751 1.4299797
350 0.381182007 1.2312231
345 0.34177201 1.3835407
340 0.374849678 1.4768707
335 0.370562729 1.4780478
330 0.380518099 1.5373031
325 0.433673548 1.5516461
320 0.42436209 1.4702071
315 0.389640276 1.4744703
310 0.41947781 1.452396
305 0.387485792 1.5655033
300 0.394948014 1.5922935
295 0.357323841 1.5622991
290 0.274949467 1.5703467
285 0.281841652 1.4481003
280 0.191281463 1.4227193
275 0.04866446 1.324307
270 0.010104968 0.7065839
265 -0.039332547 0.6599728
260 -0.062113667 0.5607039
255 0.036832546 0.6496324
250 0.032308858 0.5364669
245 -0.027708853 0.5187721
240 -0.15646723 0.4587613
235 -0.024652604 0.6546835
230 -0.027032151 0.7043639
225 -0.196488201 0.9900249
220 -0.409485062 0.8853397
215 -0.400626553 1.3036376
210 -0.57532354 1.7205693
205 -0.50957413 1.8403411
200 -0.5731726 1.7960502
195 -0.432323911 1.6873863
190 -0.346773482 1.5683574
185 -0.4573594 1.7707782
180 -0.69571222 1.9248327
175 -0.77079978 1.8519268
170 -0.71257012 1.8313211
165 -0.60604274 1.8313416
160 -1.12293456 1.9668285
155 -1.04698777 2.1748121
150 -1.22083713 2.3757664
145 -1.26964591 2.4033531
140 -1.2604374 2.3091317
135 -1.29393523 2.9558068
130 -1.12734239 2.5811838
125 -1.17592585 2.6175639
120 -0.97255067 3.1983467
115 -0.7274648 2.81164
110 -1.25345566 3.391352
105 -0.90906343 3.6543439
100 -0.75480281 3.3584566
95 -0.87192938 3.6832095
90 -0.8670818 3.6731799
85 -2.07942782 2.8818158
80 -1.67384656 3.2677596
75 -1.49534276 3.3213478
70 -2.17616184 2.6867913
65 -3.18824079 2.2826986
60 -2.58641499 1.8196848
55 -1.96280793 2.1530867
50 -5.17692524 0.4978661
45 -10.03418265 -4.3050707
40 -11.4643578 -3.8941149
35 -11.88674029 -4.8044495
30 -12.87833898 -0.4475859
25 -17.91586969 2.9018796
20 -18.23896135 8.2770877
15 -20.20001794 12.8368038
10 -6.6801729 20.7522318
その前提となるのが、広島に落とされた濃縮ウラン型原爆と長崎に落とされたプルトニウム原爆の物理、機械的相違である。
濃縮ウラン型は、臨界量未満の濃縮ウラン(ウラン235は90%以上)を円柱状にして置き、その中心に濃縮ウランの棒をピストルのように打ち込み十分な超臨界状態になったのちに、その棒の先端につけた中性子源から中性子を発生させて爆発させる。比較的簡単な構造である。
一方、オッペンハイマーが開発の主役となったプルトニウム型では、プルトニウム240という自発的に核分裂する核種が微量に含まれてしまうので、濃縮ウランのような単純構造では、超臨界状態になった瞬間にプルトニウム240からの中性子が発生すると核分裂による熱膨張で未臨界に戻ってしまう。そこで、映画にも出てきたエドワード・テラーが爆縮装置と呼ばれるプルトニウム球の周囲に配置し、ダイナマイトによる爆発力で周囲から圧力を加えることでこの熱膨張を抑制し、十分な爆発力を得る構造としたのである。
これは、原爆用濃縮ウランの製造には天然ウランの核分裂性核種ウラン235の比率0,7%を90%以上に濃縮する必要があり、複数段の濃縮装置に多大な電力と時間が必要だった一方で、プルトニウムは低燃焼度のウランとプルトニウムの化学分離の操作だけで製造できたからである。
しかし、プルトニウムの爆発には、混入するプルトニウム240がいつ中性子を発生するか、また、爆縮装置がうまくプルトニウムを圧縮してくれるかといった予測困難な問題があり、映画にもあるようにネバダの砂漠で、トリニティと呼ばれた実験を行い、核爆発力と兵士をモルモットにした実験が行われた。但し、この爆発力の見積もりは各研究所や大学機関で1桁以上の差があり、映画にもあるように兵士の配置が遠すぎて人体影響はほぼ見られなかった。
その一か月後、トリニティと同設計での長崎原爆が落とされたわけである。
米国政府としては、広島の原爆は構造が簡単なので確実に爆発することは分かっていたのだが、日本が降伏する前にこのプルトニウム型原爆を実験したかったのであろう。僅か、3日後に長崎に落とされた。
それは米ソ冷戦への備えとして落としたとしか思えない。オッペンハイマーは本来、戦争抑止のために開発したはずのプルトニウム原爆が長崎で一般市民に使われたため怒って戦後は核開発の反対論者になりスパイ容疑で裁判にかけられたという経緯が映画の後半の主題である。
なぜ、こんな歴史を今更と思うだろうが、最近、広島と長崎の被ばく者のがん発生率を分析したところ、長崎の被ばく者のデータに異常があることが分かったのである。下記は、統計ソフトRを用いて、広島と長崎の全被ばく生存者の被ばく量と固形がん発生リスクを分析した例の一部である。比較のため、400mGy以下の低線量範囲での比較結果のみ示すと以下のようになった。これは被ばく線量で比較したリスクであり本来広島と長崎で同傾向にならなければならない。
しかし、この発がんリスクの傾向には両市間で大きな相違がある。特に、低線量ほどリスクが大きいという結果になっている長崎市のデータには大きな問題点があると考えられる。
過剰相対リスク
線量範囲上限(mGy) 広島 長崎
400 0.800261919 1.074421
395 0.824506781 1.1539922
390 0.762176781 0.9001722
385 0.606536237 0.8074187
380 0.449953241 0.7136868
375 0.46056437 1.4629095
370 0.402776568 1.3920268
365 0.343500724 1.3379963
360 0.351151039 1.4072673
355 0.337969751 1.4299797
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335 0.370562729 1.4780478
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305 0.387485792 1.5655033
300 0.394948014 1.5922935
295 0.357323841 1.5622991
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265 -0.039332547 0.6599728
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215 -0.400626553 1.3036376
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205 -0.50957413 1.8403411
200 -0.5731726 1.7960502
195 -0.432323911 1.6873863
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155 -1.04698777 2.1748121
150 -1.22083713 2.3757664
145 -1.26964591 2.4033531
140 -1.2604374 2.3091317
135 -1.29393523 2.9558068
130 -1.12734239 2.5811838
125 -1.17592585 2.6175639
120 -0.97255067 3.1983467
115 -0.7274648 2.81164
110 -1.25345566 3.391352
105 -0.90906343 3.6543439
100 -0.75480281 3.3584566
95 -0.87192938 3.6832095
90 -0.8670818 3.6731799
85 -2.07942782 2.8818158
80 -1.67384656 3.2677596
75 -1.49534276 3.3213478
70 -2.17616184 2.6867913
65 -3.18824079 2.2826986
60 -2.58641499 1.8196848
55 -1.96280793 2.1530867
50 -5.17692524 0.4978661
45 -10.03418265 -4.3050707
40 -11.4643578 -3.8941149
35 -11.88674029 -4.8044495
30 -12.87833898 -0.4475859
25 -17.91586969 2.9018796
20 -18.23896135 8.2770877
15 -20.20001794 12.8368038
10 -6.6801729 20.7522318
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