広島の被ばく者は実際にはどの程度被ばくしたのか2024年08月06日 17:29

 ICRPや各国の被ばく規制値の大元である広島・長崎の被爆者データが公開されなくなったのは、個人情報保護の観点という名目だが、少なくとも数年前までは公開されていた。

 しかし、その中にあった被ばく量の評価の基となる線源データ(原爆がどの程度の放射線を放出したのか)という最も基本となるべきデータは、軍事機密の壁に阻まれ多くが米国側の独占評価データとなっており、日本側には公開されていない。

 これが、いつまでたってものどに刺さった骨のようにがん発生確率と被ばく量の関係の議論の曖昧さの一因になっている。実際、被ばく量データは数年おきに多少異なる値が報告されており、関係学会はその妥当性、影響を後追いするのに追われている。

 ここでは、どの程度の妥当性があるのか、公開されている原爆の構造とエネルギー放出量から簡単なモデルで爆心からの距離と被ばく量の関係を概算してみた。

 実際の被ばく者データはこのような単純なモデルではなく、米国側の評価した家屋の遮へい効果などを被ばく生存者ごとに、個々に考慮した結果のみを日本側に提示している。しかし、その詳細は米国研究者のみが知るところであり、その結果、ますます本当の値が何なのかブラックボックス化している。現在の被ばく線量とがん発生リスクのICRP値は砂上の楼閣かもしれない。

ここで行った評価の基本条件は以下のとおりである。
(1)原爆(LittleBoy)の基本構造はWikipedia公開のデータを用いる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Little_Boy
(2)爆発エネルギーはTNT換算16ktとする。(放影研公開データ)
(3)総ち中性子発生数は、16ktから、原子炉物理テキストデータを用いて換算する。(米国側データによる放影研公開データは不整合なため使用しない。炉物理テキストデータの1/3となっている。核分裂数当たりの中性子発生数は約3なので、米国側が適当に書いた可能性もある。爆発時間も放影研データでは1μ秒以下となっているが、高速炉の即発中性子寿命から推定される爆発時間は6.2μ秒なので、米国側は、より詳細な値を提示すべきである。)
(4)爆発中心は標高650mとする。(放影研公開データ)
(5)地形は無限平板、空気は湿度70%の空気とし、爆発中心から代表距離の位置でのガンマ線を連続エネルギモンテカルロ計算により評価する。
(6)ガンマ線線量換算係数はICRP Pub. 116を用いる。
(7)中性子線量については寄与が小さいので無視する。

 モデル化にあたっては、原爆の爆発時の細部仕様が上記Wiki公開データでは不明のため、寸法関係で仮定した部分もあるが、結果的には、下記値となった。

爆心直下 :21.7Gy
0.5㎞    :7.5Gy
1㎞     :0.96Gy
1.5㎞    :0.13Gy
2.0㎞    :0.039Gy
2.5㎞    :0.0066Gy

これらの値と放影研の個人被ばくデータを比較したいところだが、
現在非公開になっており、また、家屋等の遮へい効果も不明なため単純な比較はできない。

ただ、上記値は従来公開されている値よりかなり小さい値になっており、これで被ばく生存者の位置において有意ながん発生があるのか疑問である。しかし、ICRP基準は原爆(当方の計算では1ミリ秒以下で被ばくした)における時間線量率の高さを無視して、年間被ばく量制限値として用いることを前提にデータを公開しており、上記値のような小さな値でがん発生があるとすると、規制にならないと考えたという疑いも考えられる。いずれにせよ、データ公開は必要であり、今や、原爆の構造も、北朝鮮ですら広島型よりも大きく変更している。LittleBoy、Fatmanともに放影研に全面データ公開し、日本側ですべての線量評価をしてもらいたいものである。、