トリチウムの有機結合とカリウムによる内部被ばくの評価 ― 2024年06月01日 10:14
中ロの首脳による福島処理水におけるトリチウムの放出非難の報道は非科学的だったが、実際にトリチウムが体内でどの程度DNA損傷に影響するのかを体内に存在するカリウム放射能との比較で定量的に比較してみた。
一般に体内には成人で約3800ベクレルのカリウム‐40同位体(K-40,半減期12億7千万年)が存在している。
https://www.saitama-u.ac.jp/ashida/ques-box/quesbox144.htm
カリウムは必須栄養素なので、K-40も体内に存在しているわけだが、そのミトコンドリア内での作用は、細胞のエネルギー源とも言われている。酸素がなくても自然放射能なので、エネルギー、即ち熱源として利用されるのである。
しかし、K-40の放射線は1ベクレル当たり、1.33MeVのベータ線と1.46MeVのガンマ線であり、トリチウム(1ベクレル当たりの放射線18.591keV,平均5.7KeVのみ)に比べ3ケタ大きいエネルギの放射線を放出する。
1MeVのガンマ線の水中での飛程は約14㎝(スピンクス・ウッズ「放射線化学入門」産業図書、p.48)であるから、K-40のガンマ線は体内を貫通するエネルギーとなる。即ち、体内のどこかのDNAに衝突して損傷を与えることになる。これはヒトが誕生してから常に体内で内部被ばくを受けていることを意味する。
では、トリチウムではどうだろうか。
西尾、「被曝インフォデミック」、寿郎社、p.109によれば、
「体内で有機結合トリチウムとなったトリチウムからのベータ崩壊によりヘリウム‐3に核変換するために、DNAの水素結合が損傷される」と記載されている。
即ち、体内の有機結合トリチウム濃度が問題になるわけである。
(なお、トリチウムβ線は上記書籍では細胞1個分の飛程しかなく、細胞内のDNA重量比はヒトで0.06%(=6pg/10ng)程度であり、β線によるDNA損傷寄与は無視できるのでここでは、上記書籍の記述のようにヘリウム‐3への核変換によるDNA損傷を評価する。即ち、仮に、ベータ線でDNAが損傷したとしても、核変換による損傷に比べ、無視できるということにである。)
福島サイト沖の海水のトリチウム濃度は10ベクレル/Litter以下と報告されている。
https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2024/2q/seawater_rapid_measurement_240531-j.pdf
仮にこの濃度が体内でも存在すれば、体重60㎏の人は約600ベクレルのトリチウムを内包して内部被ばくを受けることになる。(上記濃度で毎日2Litterを飲むと20ベクレル/日であるが、濃縮なしでの平衡状態を想定した。)
これは、上記のメカニズムでDNAの水素結合部の水素のみが有機結合トリチウムに変わったという超安全側を想定した場合、K-40からのガンマ線によるDNA損傷の15%程度(=600/3800)の寄与になる。
上記書籍ではトリチウムの体内濃縮がありうるとしているが明確に記載されていない。この場合、その寄与はDNAの結合水素と細胞内の水素の比率まで許容できる。ヒトゲノムは約30億の塩基対からなる(二河、「生命分子と細胞の科学」、放送大学出版、p.116)が、各塩基対に水素が一個対応するとすれば、細胞当たり30億個のDNA結合水素が存在する。
一方、成人の細胞数を約60兆個とした場合、細胞一個の平均重量は約1ng(https://www.google.com/search?client=firefox-b-d&q=%E3%83%92%E3%83%88%E3%80%80%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%95%B0)であるので、細胞当たりの水の中の水素の個数は
6.23E23/18*1E-9 *0.6*2=7.5E14
となる。(水重量比率を60%と仮定)
即ち、DNAの30億のどこかの位置にトリチウムが取り入れられる確率は、トリチウム1個が600ベクレルの中で運よくその細胞に摂取されたとしても
30E8/7.5E14/1.79E-9=2.2E-5
(1.78E-9/sはトリチウムの崩壊定数)となる。
逆に言えばDNA内の有機結合トリチウムの生成において、トリチウム濃縮効果が2の4乗倍にできれば、その細胞のDNAにトリチウムが取り入れられるということである。
即ち、少なくともこれだけのトリチウム濃縮効果が細胞内で達成できなければ、体内に自然に存在するK-40の放射線影響には競合することができないということになる。
この書籍自身が被ばくインフォデミックにならないことを願います。
なお、トリチウムのベータ線によるDNA損傷の監察結果、濃度との関係については下記に詳しい。
https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2022/01/77-01_035_researches3.pdf
一般に体内には成人で約3800ベクレルのカリウム‐40同位体(K-40,半減期12億7千万年)が存在している。
https://www.saitama-u.ac.jp/ashida/ques-box/quesbox144.htm
カリウムは必須栄養素なので、K-40も体内に存在しているわけだが、そのミトコンドリア内での作用は、細胞のエネルギー源とも言われている。酸素がなくても自然放射能なので、エネルギー、即ち熱源として利用されるのである。
しかし、K-40の放射線は1ベクレル当たり、1.33MeVのベータ線と1.46MeVのガンマ線であり、トリチウム(1ベクレル当たりの放射線18.591keV,平均5.7KeVのみ)に比べ3ケタ大きいエネルギの放射線を放出する。
1MeVのガンマ線の水中での飛程は約14㎝(スピンクス・ウッズ「放射線化学入門」産業図書、p.48)であるから、K-40のガンマ線は体内を貫通するエネルギーとなる。即ち、体内のどこかのDNAに衝突して損傷を与えることになる。これはヒトが誕生してから常に体内で内部被ばくを受けていることを意味する。
では、トリチウムではどうだろうか。
西尾、「被曝インフォデミック」、寿郎社、p.109によれば、
「体内で有機結合トリチウムとなったトリチウムからのベータ崩壊によりヘリウム‐3に核変換するために、DNAの水素結合が損傷される」と記載されている。
即ち、体内の有機結合トリチウム濃度が問題になるわけである。
(なお、トリチウムβ線は上記書籍では細胞1個分の飛程しかなく、細胞内のDNA重量比はヒトで0.06%(=6pg/10ng)程度であり、β線によるDNA損傷寄与は無視できるのでここでは、上記書籍の記述のようにヘリウム‐3への核変換によるDNA損傷を評価する。即ち、仮に、ベータ線でDNAが損傷したとしても、核変換による損傷に比べ、無視できるということにである。)
福島サイト沖の海水のトリチウム濃度は10ベクレル/Litter以下と報告されている。
https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2024/2q/seawater_rapid_measurement_240531-j.pdf
仮にこの濃度が体内でも存在すれば、体重60㎏の人は約600ベクレルのトリチウムを内包して内部被ばくを受けることになる。(上記濃度で毎日2Litterを飲むと20ベクレル/日であるが、濃縮なしでの平衡状態を想定した。)
これは、上記のメカニズムでDNAの水素結合部の水素のみが有機結合トリチウムに変わったという超安全側を想定した場合、K-40からのガンマ線によるDNA損傷の15%程度(=600/3800)の寄与になる。
上記書籍ではトリチウムの体内濃縮がありうるとしているが明確に記載されていない。この場合、その寄与はDNAの結合水素と細胞内の水素の比率まで許容できる。ヒトゲノムは約30億の塩基対からなる(二河、「生命分子と細胞の科学」、放送大学出版、p.116)が、各塩基対に水素が一個対応するとすれば、細胞当たり30億個のDNA結合水素が存在する。
一方、成人の細胞数を約60兆個とした場合、細胞一個の平均重量は約1ng(https://www.google.com/search?client=firefox-b-d&q=%E3%83%92%E3%83%88%E3%80%80%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%95%B0)であるので、細胞当たりの水の中の水素の個数は
6.23E23/18*1E-9 *0.6*2=7.5E14
となる。(水重量比率を60%と仮定)
即ち、DNAの30億のどこかの位置にトリチウムが取り入れられる確率は、トリチウム1個が600ベクレルの中で運よくその細胞に摂取されたとしても
30E8/7.5E14/1.79E-9=2.2E-5
(1.78E-9/sはトリチウムの崩壊定数)となる。
逆に言えばDNA内の有機結合トリチウムの生成において、トリチウム濃縮効果が2の4乗倍にできれば、その細胞のDNAにトリチウムが取り入れられるということである。
即ち、少なくともこれだけのトリチウム濃縮効果が細胞内で達成できなければ、体内に自然に存在するK-40の放射線影響には競合することができないということになる。
この書籍自身が被ばくインフォデミックにならないことを願います。
なお、トリチウムのベータ線によるDNA損傷の監察結果、濃度との関係については下記に詳しい。
https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/2022/01/77-01_035_researches3.pdf
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