放射線がん治療と被ばく管理基準に関する考察2022年01月13日 02:24

 知人が前立腺がんに罹り、手術ではなく、通常の放射線がん治療を受けた。数回照射したとのことである。ネットで調べると、70シーベルト(Sv)程度ガンマ線を照射するらしい。局所的だろうがそれにしても福島での避難区域基準20ミリシーベルト(mSv)の3桁上の値である。がん部分以外の健全細胞部分は大丈夫なのか。mSvレベルの被ばくでがんの恐れがあり、一方、Svレベルの照射でがんが治るという明らかな矛盾がある。

 この矛盾の解決の鍵は放射線の照射時間であろう。
福島に適用されている基準は国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従い、法律化されたものに基づいている。もともと、ICRPの基礎データは広島・長崎の被爆者データによるものである。それ以外も多少はあるが、発がんという確率事象に対し、十分な統計精度で予測できるデータは原爆被ばく者データしかないのが現状である。生体実験は難しい。
 ところで、精度を原爆の爆発時間は約1マイクロ秒であるが、前立腺がん治療の照射時間は1時間レベルである。即ち、原爆に比べ、9桁長い照射時間となっている。
 広島・長崎の爆心地の線量は10Svレベルで放射線治療と同じレベルである。しかし、被ばく時間が9桁異なると生体応答がどうなるかという問題になる。
 DNAは二重らせん構造の安定性により、仮に損傷しても、それは瞬時に修復される。
 放射線治療では、DNA構造が異なるがん細胞と健全細胞の修復能力の差を利用してがん細胞を優先的に壊死させる。
 原爆の瞬時照射では健全細胞でも修復が時間的に間に合わないため、がん化してしまうのである。
 単位時間(秒)当たりの被ばく線量率を求めると

 前立腺がん治療
 70÷3600=0.019シーベルト/秒(Sv/s)=1.9E-3Sv/s
 原爆爆心地
 10÷0.000001=10000000Sv/s=1E7Sv/s
 福島避難区域(年間20ミリシーベルト)
 0.020÷3600÷24÷365=6.3E-10 Sv/s

 即ち、福島の1秒当たり被ばく線量率はがん治療での値の7桁下ということになり、広島・長崎の爆心地に対しては17桁下である。

 広島・長崎では爆心地から3キロメートル程度離れると、平均的には200mSv程度の被ばく量となった。それ以下では統計的に有意な発がんが検出されていない。では、200mSvでの1秒当たりの被ばく線量率を計算すると
 0.2/0.000001=200000Sv/s=2E5Sv/s

 即ち、前立腺がん治療ではその8桁下、福島では15桁下ということになる。

 もちろん時間線量率だけではなく、時間積分量も問題にはなるだろうが、年間20mSvで100年生活しても2Svである。即ち、一回のがん治療の1桁下のレベルである。

 厚労省は、福島のデータも、がん治療のデータも豊富に持っているであろう。早く、両者の突合せをおこない、ICRP基準で決めた避難区域設定を見直すべきであろう。正確には当時の民主党厚労大臣は、ICRP基準の解釈をめぐる専門家の意見を無視して低めに設定したようではあるがそれが本当に安全側といえるのか、放射線以外のリスクとのバランスを無視し判断の妥当性を欠いていたのだろう。

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