花粉症、ディーゼル排気とホルミシスの関係性2023年05月13日 11:40

 嵯峨井勝著「PM2.5,危惧される健康への影響」本の泉社(2014)によれば、
 国立環境研究所での動物実験で分かった健康影響とその作用メカニズムとして、以下の話が出ている。 いわゆる点鼻投与実験で、アレルゲン (OA、 卵の白身のタンパク質) 単独投与あるいは DEP(ディーゼル排気粒子) 単独投与ではアレルギー反応の指標である IgE抗体価は検出限界 以下だったが、両者を併用投与するとほぼ100 倍にも増えたと報告されている。
 マクロファージはアレルゲンとして受け取った情報をT細胞を介してB細胞 (B リンパ球)に伝え、直ちに異物と特異的に反応するIgE抗体を大量に作れと命令する。 IgE抗体は、肥満細胞の表面にある受容体に結合します。 この状態のところへ2度目に入ってきた抗原がアレルゲン IgE の頭の部分に結合すると肥満細胞は活性化され、 PAF、 LTB4、 ECF-A などの化学物質が放出されクシャ ミ、鼻水、鼻詰まりなどのアレルギー反応を引き起こす。
 さらに、 PAF、 LTB4、 ECF-Aなどは白血球の一種である好酸球にも作用し、 より多くのアレルギー反応 を引き起こします。スギなどの花粉は30~50μm と非常に大きいので鼻腔で引っか かり、気道や肺には入らない。 そのため、 症状は目や鼻の粘膜に限ら れるのです。 一方、カビやダニの死骸などはPM2.5なみの大きさなの で気道の奥まで侵入して気管支喘息を引き起こす。

 ということである。かなり複雑な機序だが、DEPとスギ花粉が同時に取り込まれることで、花粉症が発症し、DEPとPM2.5物質が同時に吸入されると気管支喘息が発症することになる。

 最近のクリーンディーゼルの排気ガス中のDEPは粒子が細かいので花粉症をより引き起こしているのかもしれない。数十年前は、奥多摩などの山林地帯でのスギ花粉症発症は少なかったとのことであるが、今は都会との差が小さくなっているようだ。車社会の進展や中国の大気汚染の影響なのかもしれない。

 ところで、この本の別の個所に、自動車研究所で行われた、DEPを薄めた場合の動物実験結果が示されている。
 
 この実験では、0.01μg という、 環境研究所で行った実験で用いたアレルゲンの100分の1と言う極めて微量のアレルゲンを2 年間に渡って繰り返し投与している。著者によれば、これは、 結果的に減感作療法 を行ったことになり、 喘息にならないようにする治療実験をしたことになる。 それに対し、環境研究所の実験は、 1μg と いう通常の実験で用いられている量のアレルゲンを投与する実験だったので、 喘息の基本病態が発現したとのことである。

 この自動車研究所の実験は、薄めた物質が逆に免疫機能を強める、ワクチンのような効果を示していると思われる。ある意味では、放射線ホルミシスのようなものとも共通している。ホルミシスは、生体に有害だと思われる物理化学的な作用を、微少量長期的に投与することで逆に免疫機能が強化されるもので、放射線ホルミシスに関しては、がんの発生確率が被ばくしていない場合よりも下がること可能性を示したものである。

 ICRP(国際放射線防護委員会)の被ばく防護基準では、放射線ホルミシス仮説とは逆に、閾値無し仮説を支持しているし、そのICRP基準で日本の放射線関係法規も作成されている。しかし、ICRP基準のベースは広島・長崎の一回きりの被ばくデータである。上記のような長時間低量被ばくとは状況が大きく異なる。このような被ばく状況での閾値やホルミシス効果の有無を早急に解明する必要がある。